第36話

「ぜ、全属性。」



アルビレス先生の呆然とした声をバックに、美形…テディー・マーシャルが振り返る。


「全属性。お揃いみたいだね。」


「はひん。」



その笑顔に、もはやぐうの音も出ない。呆然とする私の前に立ったテディー・マーシャルは、私の髪を一房取って、それに口付けた。途端、教室内に悲鳴に近いざわつきが戻る。


「はじめましてアシュリー・ケイス嬢。私はマーシャル公爵家嫡男、テディー・マーシャルという。同じ全属性を持つ者同士、仲良くしてほしい。できれば少々親密な方で、ね?」


「へは?」


ヒロインちゃん。ふえ?とか言うんじゃないよとか悪態ついてごめんね。自分の予想の範囲外、それも宇宙レベルの未知数と接触すれば、自分の語彙力なんてどこかにイッちゃうね。



ファンディスク限定攻略対象者。そういえば生前見ていた小説や漫画にはそんな展開もあったなと他人事のように思い出す。だけどそれは、基本悪役令嬢転生ものとか、そんなんだったと思うんだけど?モブが主人公、というパターンはあったけど、流石にヒロインだけが狙えるファンディスク限定の難易度SS攻略対象者が相手な話は見たことない。



だけど今、この男、なんて言った?できれば少々親密な方で?そんなことを言えば、私の相手はこの男で決まったようなもの。公爵家の嫡男様なのだ。彼が私を気に入っていると公言している今、私を狙えるのは皇太子ただ1人。皇太子と公爵家嫡男が子爵家令嬢を取り合う?そんなのありえない。ということは実質、テディー・マーシャルがアシュリーに唾を付けましたよ。誰も狙わないでね?という実質ほぼ取ったようなもんな予約に等しい。


目の前で私に微笑みかける神々しい存在を前にして私は、ヒロインが苦々しくこちらを見ていたことにも、ヴァネッサが面白くなさそうにテディー・マーシャルを見ていたことにも気づけないでいた。



…せっかくのヴァネッサ様のヤキモチを見逃すなんて。私はなんて愚かなんでしょう。

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