第33話

皇太子も頬が引くついているあたり、気づいているのだろう。



ラミトとラビットはアホなので気づいておらず、グレゴリーはどこ吹く風。つまりどうでもいいのだ。



「ヴァネッサ様は私がエスコートいたします。私には、貴女しか見えておりませんので。」


「あ、あなたっ。またそんな誤解を招くようなことをおっしゃって!」



頬を赤くするヴァネッサ様。だけど手はしっかりしなり、と出されて、その白磁のお手てにちゅうしたい。


ああ、まんざらでもないヴァネッサ様、神。そう思いながら、目が合った皇太子の間抜け顔に鼻を鳴らす。不敬?そんな言葉は知りません。この世の美を集めた存在、ヴァネッサ様を蔑ろにした時点でそれこそ不敬よ。



チラリとヒロインを見れば、爪先を噛みながらこちらを睨んでいる。男性陣が気づいていないとはいえ、その顔はちょっとヒロインらしくなくてよ。バチンとウインクをすれば、めちゃくちゃ嫌そうな顔でドン引きされた。解せない。




私のエスコートでヴァネッサ様が退出。それに従う取り巻きたちも、自分の婚約者からツンとそっぽを向いて着いて行くさまを見ながら、ある男性がつぶやく。



「ふむ、面白い。アシュリー・ケイス子爵令嬢、か。」



その男性を私が認識するまで、あと数日。これからの私の運命を大きく変える、重要人物とのニアミスに、私はこの時気づいていない。

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