第30話

実際に、周りでお茶をしている貴族らしい女性たちは扇子を口の前に持っていって眉を潜めているし、道行く男子生徒や平民たちは嫌悪感を隠しもせずにヒロインたちを見ている。


それに気づかない皇太子たちは、普段から注目されることに慣れすぎて、その視線の種類なんてどうでもいいせいなの?それにしては鈍すぎでは。そう思ってしまう。



そして、そのヒロインを囲む男性たちの婚約者が集まるこの席は、そんな視線を受けているのが自分の婚約者であるという不名誉に目をつぶるような人たちではない。


この国を統べる将来を約束された人たち。そんな人たちの婚約者になれる人は当たり前だけど家格、淑女としての能力、家の持つ財力などが一級品の女性。勿論うちみたいな貧乏子爵家は例外。私はヴァネッサ様に頭を踏みつけられるためならば、烏滸がましい、浅ましいと誹りを受けようとも張り付いていようと決めている。



そんな私を除けばこの方たちはこの国のほぼ頂点に君臨する淑女の中の淑女なのだ。



淑女とは。高潔であり、美しく、そして気が強い。



プライドが山よりも高いのが許される彼女たちは、自分が不名誉な噂の対象となるのをよしとせず、当たり前にそれに対処できる。



だから今、彼女たちは言っているのだ。



この彼女たちを統べる代表のヴァネッサが、一言物申すべきである、と。



家格的にも立場的にも、ここで皇太子に意見ができるのはヴァネッサのみ。皇太子に苦言を弄し、彼が反省すれば、自分たちの婚約者も気づいてくれるはず。


だから、動いてほしい。そう遠回しに言っている。

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