ヒドイン

第28話

「あんた、絶対転生者でしょ?」



おおう。目の前の女性を前に、そんな異音を出しそうになるのを慌てて飲み込んだ。


「転生者?とは、なんでしょう?」



淑女スマイルで首を傾げる。きちんと顎に手を添えて、なぁにあなた、困ったちゃんね?風を出すのを忘れない。私の発言にヒドイン、こと、キャロライン・ラングレーは、その可愛い顔をこれでもかというほど険しくさせて舌打ちを吐き捨てた。


うわ、マジで。今名付けたけどこの子も転生者?マジで【ヒドイン】って名前に相応しい態度だな。



「ヴァネッサなんかに取り入って、なに?アンタも誰か狙ってんの?ヴァネッサから攻略ってことは、もしかしてミカエル?うっそ!たかが子爵の娘でモブのアンタが?無理なんですけど!」



いやいや、お前は男爵家の娘では?ヒロイン無双というチートがなければ普通にありえない縁組でしょ!呆然とする私を前に、ヒドインキャロは口が止まらない。



「ていうか、攻略対象者は全部私のなんですけど。偶にモブがモブに転生して愛されちゃいました、みたいな話あるけど、勘違いしちゃった?ごめんね?この世界は私のために存在すんの。あんたには無理!きゃはっ!」



私の発言すら許さないとばかりに、身の程を知れとあざ笑いながら罵る男爵令嬢。いやいや、こっちが身の程を知れと言っても、いいですか?お互い低位貴族とはいえ、うちの家の家格の方が上なんですが。



勿論、家を継いだわけじゃないから、私達の地位は不安定ではあるけど…。同じ貴族家の令嬢という立場なら、家の家格が上の令嬢の方が価値が上なのは、この世の常識だ。



これは、まさかのヒドインか?それなら自爆してくれるのではないだろうか?一抹の期待を背負いながら私は、さんざん罵って、もう邪魔すんなよ、という謎の言葉を残して去っていくヒロインの厳つい後ろ姿を見ながら思った。



ーーーヴァネッサ様みたいに、美しくない。って。

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