第27話

「懸想?誰がヴァネッサ様を女性として好きになったと?」


「おっ、お嬢様に抱きついて、に、に、匂いまで嗅いでいるじゃないか!女性同士でなんて。そんなの許されないことだ!」


「ふっ、勘違いも甚だしい。ヴァネッサ様の匂いを嗅いだ?そんなことだけで私がヴァネッサ様を愛していると?そんな単純な話なら、この社交界では女性同士の恋愛ばかりになってしまいますわね!」



トミーが訝しげに首を捻るけど、ヴァネッサ様は少し斜め上を一点見つめして数秒、ハッとした顔になる。淑女の鏡ヴァネッサ・ローズなのに、こういうOFFの時に表情がコロコロ変わるのは、ゲームをしているだけなら分からないことだ。


しかも私の視線に気づいて頬を赤らめてとぼけるのもまた、可愛い!


バサッと扇を開いて、口元に。特注のこれは、ヴァネッサへのリスペクトが詰まった、私のお小遣いの集大成だ。ヴァネッサの色。髪の色、瞳の色、ゲームのスチルで来ている色とりどりのドレスの色が使われている、この時代では珍しい、刺繍の扇。宝石類は一切使わず、刺繍のプロによる糸で織りなす芸術。最高の仕上がりだったからチップもはずんだ。お陰で私のお小遣いはすっからかん。



「社交界ではヴァネッサ様のようないわゆる社交の華のトップを走る方の香りを嗅いで、その身に纏う香水を手に入れるのは嗜みの一つ。流行を作る方を追うのは令嬢として当たり前。香りを嗅いだだけで懸想、というのなら、今やヴァネッサ様の香水を買い求めた淑女たちはみいんなヴァネッサ様を愛しているということですわねぇ?」



トミーのバカがうぐっと息を呑む。ヴァネッサ様も確かに、って顔をしたけど、ちょっと納得がいかない、腑に落ちないって顔をしてる。



「それに。私はヴァネッサ様を愛してはおりません!」



その発言に、従者3人が私を睨む。ヴァネッサ様もなんとなく、がっかりしたような、そんな表情に見えるのはなんでだろう?だけど、ここは違うとはっきり言わなければ!



「私のヴァネッサ様への愛は、愛しているなんて言葉じゃ片付けられません!そう推し!推すとはそのどれよりもでかい愛を捧げるということなんですから!」



宣言した私を見て、ヴァネッサ様が目をまるまると見開いている。従者の3人も。なぜ?これほどの巨大な私のヴァネッサ様愛が大きすぎる故なのかな?分かる。推し愛って、誰かに理解されようと思っちゃだめだもんね。自分がなぜ推すのか。その理由なんて明確なものはないの。



「推しとは、尊し!」


「ヴァネッサ様、今の内に逃げましょう!」


「そ、そうね。その方が良さそうだわ。」



こういう時も優雅に逃げるヴァネッサ様!最高です!

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