第17話

「ここまでで大丈夫ですわ。お時間もお時間ですし、ラビット様はご自分の教室に急いで行かれてください。」



残りのエスコートは従者のアイクがしますよ、という意味を込めてアイクを視線で指す。


「…そうか。それじゃぁ。」



その途端、ムッとした表情を浮かべて素っ気ないセリフを吐き捨て、すぐさま背を向けるラビット。その背中に内心、悪態をつく。



『てめぇの頭の悪さは私のせいじゃないっての。』



ゲームの中でのラビットは、それはそれは脳筋の役割を十分に果たしてくれていた。



ミカエル・ドラグーン皇太子ルートではヴァネッサを床に這いつくばらせて首筋に剣を突き立て。


カチュア・スイム侯爵子息ルートでは彼が悪さをしたヴァネッサをお得意の火で燃やす前に、動けなくするために背中を切りつけた。


自分のルートでは娼館に売り飛ばし、グレゴリー・ワイルド辺境伯令息ルートでは、ヴァネッサを罠に嵌めて魔物の群へ提供した。


ラミト・ガーゴイル男爵令息ルートでは平民堕ちする彼女を拘束して追い出す役目を自ら請け負っていたし、ハーレムエンドでは呪いの言葉を吐くヴァネッサを、その剣で成敗する。



つまり、ヴァネッサ推しの私からしたらこいつは敵も同然。どのルートでもしゃしゃり出てきてとにかく切るしか脳のないバカ。ヴァネッサが悪い部分もあるとはいえ、とてもじゃないけどちゃんとした教育を受けた伯爵家の子息とは思えないことを平気で女性にする。



それに今もだけど。実はラビットは感情を殺せているように見えるけど、中身はかなりの激情家。今も時間を気にして別々に行動しましょうと言ったアシュリーの言葉を、クラスが違う自分を馬鹿にされたと勘違いして怒っている。



なんせ、アシュリーはSクラス。特待生であるヒロインちゃんと親友でいなければならないのだから、彼女が同じクラスに入れるほどの才女であることは設定上絶対である。対するラビットは2つ下のBクラス。それを思い悩んでいるところをヒロインが慰めるという場面もラビットルートに存在するほど、優秀な婚約者に対して彼はコンプレックスを抱いていた。

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