第16話

その頃のアシュリーはモブだからその描写はほとんどないけれど、箇所箇所に出てくる情報を元に推測すれば…。



初めの出会いは、少々貴族らしくない変わった子。


次に会った時はどうやら怒っているらしい婚約者をまぁまぁと宥めるだけに留める。


そして、数々の出会いを経てあの場面。



『ふふっ、キャロラインってば、面白い子ね。どう?私達、お友達にならない?』



となるのだ。



「なんだそりゃ。」


「ん?どうした?アシュリー。」


「いいえ、なんでもございません。」



白目で自分の考察にツッコミを入れれば、めちゃめちゃ前を歩いていたラビットが振り返り、一瞬驚いた後様子を訪ねてくる。あのあと、ラビットとヒロインの出会いルートは無事に終わり、爽やかな笑顔で去っていったヒロインはあの後、宰相の息子、カチュア・スイムにぶつかりに行くはずだ。初日に忙しいもんだとひきつり笑いが止まらない。



私の返答にまったく納得いっていない様子ながらも、ラビットは私が追いつくまで歩きださない模様。



どうやら、【男性の歩幅と女性の歩幅】という、よくある鈍感項目の1つをやらかしてしまって気まずいらしい。どうでもいいけど。いっそそのまま気づかなくて教室まで行ってしまえばいいのに。



だってクラスが違うし。婚約破棄は残念ながら、私の身の安全のためにも、成功させてもらう予定だし。



まだヒロインちゃんに攻略されていない今のところは、気遣いのできないただの脳筋である。どちらにしろこういう筋肉お馬鹿さんキャラは、私の琴線には触れないけど、あまり親しくして情でも湧いたら大変だ。



ゲーム人気投票ではなぞの健闘を見せて3位の男。最悪の場合ヒロインちゃんがラビットルートを選ぶことだって十分にありえる。それに、悪役令嬢のヴァネッサを救うには、私という存在は本来の史実に則った行動を起こしてはいけない。



もし、ゲームのシナリオ強制力とかそんな未知の力が働けば、町田サクラという人格が途中で追い出されてしまい、本当のアシュリーがヴァネッサを不幸にすべく動き出す、ということも十分考えられる。

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