第14話

「お嬢様、そろそろでございます。カラトラバ伯爵令息様がお待ちでございますよ。」



ドアをノックする合図で、アイクが言う。それに軽く頷いた。これからアイクが降りるとあいつが待っていて、エスコートを受けることになるのだ。出そうになるため息をなんとか飲み込んで、アシュリーは顔を上げた。



アイクが馬車を降りる。開けた世界に飛び込んできたのは、男らしい整った顔を全く動かさずに手を差し出す大柄な男、ラビット・カラトラバ、アシュリーの婚約者だった。



「…おはようアシュリー。」


「おはようございますラビット様。」



気安く名前呼んでんじゃねーよと内心悪態を付きながら、何度も練習した淑女スマイルを向ける。一切動かない表情。添えられた手を引く遠慮のない力加減。ゲーム設定では彼は少々脳筋のきらいがあり、女心がよく分からないニブキャラ、という位置づけ。実際ラビットルートに進むと、それなりに鈍いラビットとの関係がうまく進まず、プレイヤーはこれでもかというほどのジレジレ沼を体験させられる。



それが、ジレジレ展開が好きなユーザーや単純な筋肉大好き女子、そして、こんないかつい見た目なのに名前がラビットで天然キャラなんて可愛いというギャップ大好き女子の人気を集め、公式サイトの人気ランキングではなんと3位という善戦をするキャラなのだ。それに、ラビットルート以外ではラビットとヒロインの親友アシュリーは必ず結婚するため、ヒロイン至上主義の親友を悲しませない優しい奴として人気だ。



といっても、こいつもヒロインに心酔するあまり夫婦揃ってヒロイン沼にハマりまくるという本当にアシュリーが好きなのか疑問な感じになるのだが。



『キャロが危ないんだ!お前は自分でなんとかしてくれ!』


『ええ!私も危ないのだけれど、キャロの為ならなんとかするわ!だから絶対にキャロを守ってね!』


『当たり前だバッキャロー!』



みたいなアホな会話がテンプレの残念夫婦だったりする。

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