第13話
目覚めてから入学式であるこの日まで、自分の容姿をニヤニヤ見つつ物語の細部までメモしたりと、結構忙しい日々を送ってきた。もちろん、婚約者であるラビット・カラトラバとの婚約破棄へ向けての計画も怠ることなく、考えに考え抜いたつもりだ。
「お嬢様、緊張しておりますか?」
アイクのからかうような言葉は、普通の貴族家の従者としては大変似つかわしくない。だけどそれを許すくらいには、マーサ、アイク親子とは親しくなれたつもりだった。自分はアシュリー・ケイスでもあるが、前世の町田サクラでもある。アシュリー単体では普通しない行動もする可能性があり、その時感じた違和感を、”といってもこいつ、いつもこんなんだよな”と思わせる作戦。
これまでのアシュリーとマーサ親子の距離感は、とても遠かった。それを敢えて縮めたのは、お嬢様ってこんなキャラだったんだ!と勘違いさせるためだ。もちろん、ちゃんと上下関係はお互い分かった上での親しさ。それはお互い心得ている。
こうしてへにょんと笑っているアイクでも、いざ馬車の外に出れば他の貴族家の貴族出身の従者と遜色ない敏腕従者に変身する。
「そうねぇ、確かに、緊張はしてるかしら。」
そう言いながら憂いを帯びた顔を窓の外に向ける。キレイなアシュリーの顔越しに見えた景色にため息を吐いて、アシュリーはこう考えた。
(だって、初日はイベント盛りだくさんですもんね!なんせヒロインが攻略対象者全員と出会いイベントこなさなくちゃいけませんし!)
(緊張しているだなんて。お嬢様もお可愛らしい。)
もはやフィルターのかかっているアイクを置き去りにして、内心ではうんざりしているアシュリーを乗せた馬車は、無常にも学園に刻々と近づいていくのだった。
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