第35話

時折、部署全体が忙しくて、やや踏み込んだ仕事をこうして彼女に回すことはあるけれど。



指導係である間宮先輩がきちんとやり方を教えた上でも、適当な仕事しかできない彼女を、みんな呆れた目で見ることしかできないでいた。



そしてそんな時、彼女が達成できなかった仕事が私か金剛くんに回されてしまうことは必然なわけで。


同じ”被害者”になることが多い金剛くんが、今回はお前なんだな、お疲れ様、とばかりに無言でチョコをひと粒渡してくる。


これこそが可愛い後輩だよな、とお礼を言いながら考えた。



学生時代とは違って、もういい大人がここで働いている。多少不器用な子はおれども、ある程度の説明を受ければ失敗しながらもそれなりにこなしていくのが社会人である。



だけど天美千夏。彼女は、どこぞのお嬢様かと言いたくなるくらいいつも気合いの入った服装。会社に来るというより今からコンカフェに行くのか?と思ってしまうほどの格好で、デスクに座っている。



それが初日からなのだから、目も当てられない。入社式。みんながリクルートスーツに身を包み、悪い言葉で言えばロボットが整列しているかのように同じ格好がひしめき合う中、彼女は可愛らしいピンク色のスーツを着てきた。



趣味は悪くなかった。可愛らしい彼女の容姿によく似合った素敵なお召し物だった。だけど、自分以外はみんなリクルートスーツ。そんな異常な状況であるにも関わらず、気にする様子もなく、会場でずっとスマホを見ていたんだそうだ。



同期だっていう後輩ちゃんから聞いた話しだと、会の間は社長の挨拶以外は全部スマホを見ていたらしい。そんなイカれ野郎でも思わず見ちゃうのが社長よねと、変な納得をしてしまう。

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