第3話

残業でめちゃくちゃ疲れた状態での満員電車。終電ということもあり、飲んで帰っている奴らの放つアルコール臭で乗り物酔いになりにくいタイプなのに酔いそうだ。



そこへ、ぎゅうぎゅうに敷き詰められた満員電車の中、人目も憚らずものすごく濃厚なキスをするカップルが。じゅるじゅるぴちゃぴちゃ、電車の走行音が耳を支配する中、高い水音はこの車両中に響いていたんじゃないかと思う。



「ううん、うぐっ、あ、はぁ、ん。」



女の方は痴女なのか、大胆な喘ぎ声を披露。衆人監修の中、公開AVですか?とばかりにカップルは盛り上がっていく。



皆さん勿論興味津々。顔を顰めている人もいるけど、こんな場所での公開ラブシーンに、ところどころで馬鹿にしたような笑みも見える。カップルと同じく常識の欠片もない数十人がスマホを高く掲げ、隠す様子もなく動画を撮っている。



その光景を見ていて、ホンマにAVみたいだな、と疲れた頭と体のせいでボーッとしていた時だった。



「っっ、ちなっ!」



お相手の男性の欲情MAXの声にものすごく聞き覚えがあった。



バッと未だにベロベロキスをしているカップルを見れば。



「……はっ。」



呆れの笑いが漏れる。



キスをしてたバカップルの男は私の彼氏なはずの羽瀬夏生。そして、お相手の喘ぎ女は同僚で入社2年目の同じ企画部の新人、天美 千夏あまみ ちなつだった。

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