海中の神殿
レオンはアンドロイドを操縦することが出来なかった。海中人と出会って早々、拘束されたのだから。
「しかし、過去の文献で見た『ニンゲン』って奴とイメージが違うな」
「そりゃあ、何十年も前の話だ。ニンゲンもこの変化に適応したのさ」
どうやら、海中人はアンドロイドを人間だと思い込んでいるらしい。光に誘われて着いた先が、まさか海中人のすみかだとは思いもしなかった。レオン自身が行かなくて正解だった。
監獄の門番たちは呑気に喋っているが、隙を見せない。アンドロイドだから最悪壊されても作り直せる。しかし、せっかく海中で拾った部品を回収できないのは痛い。
「それで、あの方はニンゲンをどうするんだろうか」
「やっぱり標本にするんじゃないか? 俺は王様じゃないから確信はないけど」
人間を標本にするような王様だ、おそらく他の生物の標本が所狭しと並んでいるに違いない。
「おい、門番! 我らが王が、そいつと面会したいと言っている。早く連れてこい!」
どうやら、門番たちより地位が上らしい。
「はいはい」
門番は適当に返事をすると、アンドロイドを無理やり立たせる。
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「レオン、アンドロイドは諦めるべきです」とローランが進言する。
「いや、このまま接続をしたままにするよ。海中人たちの情報を得るためにも」
レオンはディスプレイを食いつくようにして見ていた。彼らがどういう生命体なのか知っていれば、今後の行動に活かすことができる。
「さあ、王の御前だ、頭を下げろ!」
アンドロイドが無理やり頭を押さえつけられる様子が映し出される。
「遅い、遅いぞN5963! 我を待たせるとは、お前も偉くなったものだ」
「いえ、違うんです! こいつが悪いんです。ニンゲンを運ぶのを手伝わなかったんです」
N5963と呼ばれた門番は、同僚のせいにしようとしているが、レオンが見ている限りでは、そんな風には見えなかった。
「そうか、そうか……。じゃあ、お前はここまでだ!」
王様がそう言うと、門番の片割れを長い腕で引き寄せ、真っ二つに引き裂く。
レオンは思わず目をつぶる。画面いっぱいに緑色の体液が映し出される。
「海中人……野蛮な生物。仲間を簡単に殺すことあり。住処は海に沈んだニューヨーク。レオン、海中人の情報をアップデートしました」
「ありがとう。その情報が不要なことを願うよ」
レオンも流石にアンドロイドとの接続を切った。これ以上、見ていられなかった。
「今まで会った生物で一番冷酷かもしれないな。いや、人間が一番怖いか……」
レオンのつぶやきが静かな船内に響き渡った。
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