海に沈んだニューヨーク

 ニューヨーク。それはアメリカの大都市で、知らない人は誰もいないくらい有名だ。自由の女神像もある。おそらく、それも沈んでいるのだろう。大都市に向けて、船はエンジン音を響かせている。



「ねえ、ローラン」



「はい、どうされましたか?」



「ニューヨークは沈んでるんだよね? よく考えたら、どうやって探索するか考えてなかった……」



「それなら心配に及びません。アンドロイドを使えばいいのです。透明なサギを捕まえた時のように」



 言われてみれば、そうだった。どうやら、疲れのあまり頭の回転が悪くなっているらしい。



「レオン、アンドロイドはまだ本格的な武器を装備していません。海中に投入する前に改造をすべきだと考えます」



 どんな武器を持たせるか。近接武器は振動で切り裂くブレードがいいだろう。すぐにニューヨークに着くことを考えると、遠距離武器は後回しにするしかない。それか、電気銃を持たせるか。



「よし、近接武器は振動ブレードに決定だ」レオンは自分に言い聞かせるように呟いた。「ローラン、アンドロイドを改造して、海中でもしっかり機能するようにしておいて」




 しばらくして、船がニューヨークの廃墟に近づく。水面に浮かぶ廃墟が次第に姿を現し、荒廃した都市の面影が見えてきた。



 レオンは慎重に海中へアンドロイドを投入すると、船内のディスプレイの前に向かう。そこに映し出されたのは、薄暗い海中に包まれ、ニューヨークの廃墟が幻想的な光景だった。沈んだビルの壁面には、錆びついた鉄骨や割れた窓が残り、巨大な建物群が静寂の中で佇んでいた。



 アンドロイドを操縦して廃ビル群を丁寧に探索しながら、いくつかの部品を回収していった。その間も、周囲の異様な光景に目を奪われる。ところが、ふと目に留まったのは、ビルの破損部分がどれも異常に新しく見えることだった。



「ねえ、ローラン。これはおかしくない?」レオンは首を傾げる。



「確かに、断面は新しくできたように見えます。海流によって壊れたか、あるいは海中生物によって破壊されたか。いずれかでしょう」



「海中生物か……。サメみたいな生き物かな。例えば、ヒレが刃物になっているとか」



 金属のドリルを頭に持ったモグラがいるのだ、そういった生物がいても驚きはしない。透明になるサギもいるのだから。



「生き残った人間の可能性もあります」



 水陸逆転という環境の変化を乗り越えた人間は果たしているのだろうか。疑問は尽きないが、海中探索は一度切り上げるのがいいだろう。



「レオン、あの光は何でしょうか」



 レオンがディスプレイに目を凝らすと、海中に僅かばかりの光が見える。かなり遠いらしい。光に動きがないことから、生き物によるものではなさそうだ。



「どんな危険があるか分からないけれど、探索しようか」



 レオンはアンドロイドを操縦しつつ、「海中で生活する人類の生き残りでありますように」と願った。

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