金属が動く謎

 頭に金属のドリルがついたモグラ。なるほど、金属が動いていたのは、それが理由か。レオンはそう納得すると同時に、「モグラは前肢で穴を掘るのでは?」とどうでもいいことが頭をよぎった。



「ローラン、こいつは危険かい? それとも無害?」



「従来のモグラと同じであれば、無害のはずです。しかし、環境の変化で生態が変わった可能性もあります」



 ローランの返答は無難なものだった。結局はレオン自身が判断するしかない。頭のドリルは金属製だ。下手に触れれば、手をもぎ取られる。しかし、貴重な金属を得られる機会でもある。レオンは電気銃をポケットから引き抜く。向こうはこちらに気づいていないはずだ。モグラは目が発達していないから。外したら次はない。一発勝負だ。



 レオンは狙いを定めて引き金を引く。電気が走ったと思うと、金属モグラの手前に当たる。



「しまった、やらかした!」



 こちらの存在に気づかれたのだ、どうなるかは分からない。レオンはモグラに目を向けたまま後退りをする。背中を向けたら、どうなるか分からない。熊と同じだ。刺激するのはまずい。



 相手の動きを観察していたが、一向に動く様子がない。それどころか、その場で丸くなると寝息を立てはじめた。どうやら、自身が狙われていることに気づいていないらしい。それは好都合だ。



 レオンはそろそろと金属モグラに近づくと、無防備な体に電撃を流す。ビクッとすると、モグラは沈黙した。かわいそうだが、これが弱肉強食というものだ。情けをかければ、レオンの身に危険が及んだかもしれない。金属のドリルだけを切り離すすべを持たないレオンは、肩に担いで宇宙船に引き上げる。


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「ローラン、こいつは食料になりそうかい?」



 レオンはマスクをして金属製のドリルを切り離しながら訊ねる。



「残念ながら、食料にはなりそうもないです」



 レオンは「そうか」と呟くと、モグラの観察を始める。もともと海であったところにモグラがいた。つまり、環境の変化に適応したわけだ。浮遊クラゲと同じで。そうなると、環境の変化に適応したライオンがいてもおかしくない。レオンは身震いすると、ドリルを切り離す作業に戻る。



 ドリルを切り終えて早速分析してみると、チタンという結果だった。これなら、壊れた宇宙船の部品を補修するのに使えるだろう。金属モグラの犠牲も無駄ではなかったのだ。



「ローラン、現状のシステムでモグラを探知できないかな? 出来るなら、船の修理が進むと思うんだけど」



「レオン、それはおすすめしません」



「なんでさ。まさか、モグラがかわいそうという理由じゃないよね? 僕だって命がかかっているんだ」



「そのような理由ではありません。乱獲すれば、生態系が崩れます。現在の地球の生態系が分からない以上、無闇に捕えることはやめるべきです」



 レオンはがっかりとした。そう簡単にはいかないらしい。



「しかし、捕まえて探知機をつけるのは有効だと思われます。従来のモグラは地面を伝わる振動で危険を察知します。つまり、金属モグラに探知機をつけ、その進路が大幅に変更されれば、敵がいると考えて問題ないでしょう」



「つまり、生きた索敵装置ってわけか」



「その通りです。そのためであれば、モグラ探知を進めるべきです」



「よし、そうしようか」


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「ふぅ、これで付近のモグラには探知機をつけ終えたはずだ。反応はどう? うまく機能してる?」



「はい、探知機は機能しています。今のところ、彼らが敵を察知した様子はありません」



 これなら安心して宇宙船の修理に専念できる。



「レオン。修理するより優先すべきことがあります」



 どうやら、ローランに心を読まれたようだ。



「何さ、修理より優先することって」



「食料が少なくなりつつあります。持って1週間です」



 そう言われても、食料になりそうなものはない。「じゃあ、他に何を食料にするのさ」と聞くと「浮遊クラゲです」との回答だった。



「あれには独自の発光組織があります。以前、襲われた時に発光組織の分析をしています。すぐに見つけることができるでしょう」



 ローランはなんて優秀なんだ。あの襲来のタイミングで分析もしていたとは。ローラン曰く、狩りは夜の方がいいらしい。発光組織が目立つから。もうすぐ夜だ。狩りに行くにはいい時間だろう。



 しばらくして、暗闇が訪れると息を殺して獲物を待つ。体温偽造装置のスイッチを入れる。



「レオン、モグラの動きからするに、生物がこちらに近づいています。もちろん、こちらには気づいていません」



 手元のデバイスからローランが報告する。発光した姿が遠くに見えることも。



 いよいよ、浮遊クラゲと再び対峙することになる。大丈夫、今は電気銃という武器がある。レオンはそう自分に言い聞かせる。



「レオン、相手は二匹います」



「二匹!? 一匹でも手こずったのに……」



「ご安心ください。私が的確に指示を出します。弱点はおそらく発光組織です。十分に引きつけてから、引き金を引いてください」



 岩陰から標的が現れるのを待つ。やっと見えてきた。心臓の音が相手に聞こえないか、心配になる。



 発光クラゲが射程圏内に入った。一匹ずつ、冷静に仕留めればいい。手前にいる奴からだ。レオンは狙いを定めて電気銃で撃ち抜く。暗闇に電撃が走る。まずは、一匹。



「レオン、モグラたちの動きがおかしいです。浮遊クラゲ以外の生物がいる模様です」



「それはありえない。こちらからはクラゲ以外見えない」



 次の瞬間だった。急に浮遊クラゲが飛び上がると、独特の発光液体を撒き散らしながら、破裂する。



 飛び散ったそれが地面に降り注ぐと、現れたのは巨大な鳥のシルエットだった。

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