夢二夜

1  夢一夜  

その日の夜は、気温が妙に上がり、蒸し暑かった。恒武は少々不快感を覚えながらも眠っていた。

 そんな時、夢を見ていた。恒武は、謎の亜空間というべき場所にいた。立っているのか座っているのかも分からない。ただ、存在していることだけは理解できる。

「ここはどこなんだ?」

 問いかけても返事はない。

 そんな時、上から文字の羅列が降ってきた。

内容は読み取れるものだと、

「日本 2040年、GDPインドの半分以下」

「日本 2089年 国家財政破綻」

「日本経済崩壊 世界不況」

であった。

 日本の未来予測だろうか。かなり不穏である。

 目覚めた時、彼はとんでもなく不安で、切なくて、絶望的な感情に襲われた。

「これが日本の未来なのか?」

 夢で絶望することはあるが、目覚めると綺麗サッパリ忘れるか、夢か〜で終わる。だが、今回はかなり違う。

「今は夢だが、未来には現実になる」

 彼は、震えながら呟いた。だが、そうもしていられない。普通は平日の水曜日だが、有給を取って千聖と会うことになっていた。



2 東京タワーにて

「そろそろ出ないと、間に合わないな」

 着替えを始める。ぱじゃまは時計をふと見ると、すでに9時半になっていた。

「飯食ってる時間はあるか?たしか待ち合わせは、10時・・カロリーメイトぐらいは食ってこ」

 そう言って、カロリーメイトを咥え、家を飛び出した。

 息を切らしながら、待ち合わせ場所の豪徳寺駅に着いた。

13分くらいで、駅に着いた。

「あぁ、千聖さん。お待たせしてすいません」

 電車を降りて、改札に出ると、川上千聖が立っていた。身長が高く、スラッとしている。優しい顔立ちで、まだ幼さも感じる。20歳と、かなり若いが、何度か会ううちにきちんと好きになっていった。

「いえ、家も近いですし、今来たところです」

「えっと、お宅は、豪徳寺の一丁目でしたっけ?」

「えぇ。善性寺の近くの集合住宅です」

 そう言うと、彼女は歩き出した。小田急線で、代々木上原まで行き、直通で千代田線に変わり、霞が関まで移動する。

 2人は、電車に乗り込むと、隣同士に座った。

「あの事、OKもらえて嬉しいです」

 千聖が話を切り出した。恒武は、少々びっくりして返した。

「えっ、あ、はぁ・・」

 彼女は、申し訳無さそうに続けた。

「あ、いきなりすみません。昨日のチャットの返信、結婚してくださるんですね」

 彼女は、恒武に見せたことの無いほどの笑顔を見せた。

「はい。いや、敬語なんてやめようよ。もう婚約者なんだし。」

「うん」

 彼女は、まだタメ口には慣れないようだった。

 その後は、2分ほどで日比谷線霞が関駅に移動。

「もうすぐだね」

「はい、あ・・うん」

「あんまり無理しないでいいよ。そういや、婚約のこと、親御さんに伝えたいんだけど」

「そうだよね~。私的には、もう、来月には行きたいし」

「来月の8日なら、俺の実家空いてるよ。実家も、葛飾でかなり近場だし」

「そっか。なら、まず恒武のとこに行こうか」

恒武とやっとさんを外して読んでくれたことが地味に嬉しかった。

 そのまま、電車で神谷町駅に着けば、すぐだ。

 東京タワーは、平日なのもあって、外国人観光客や、修学旅行生以外はあまりおらず、かなり空いていた。

「よし、今日はいい天気だし、富士山見れるかな?」

 千聖は、かなりワクワクしていた。

「見れるよ。ついでに見たいのもあるんだよね」

 一番上に行くと、遥か遠くに富士山が見えた。

「夜ならもっと綺麗だろうなぁ」

つい本音が漏れてしまったが、横の千聖は気にしていなかった。

「すっごくきれいだね!富士山」

「うん。そうだね。えっと、みたいって言ったのは・・あ、あれ。工事中の東京スカイツリーだ」

「うわー、もうあそこまで進んでるんだね」

笑顔の彼女を彼は微笑ましく見ていた。



3 夢二夜

彼は、家に変えると、千聖からもらった夕飯を広げて食べ始めた。

彼女は、料理が趣味で、よく貰う。その日は、手作りの春巻きだった。

「おー、店のとあんまり変わらんレベルだ」

彼は驚き、携帯で写真をとり、メールで千聖にありがとうと送信した。

ご飯を食べ終え、風呂から上がると、急激に眠たくなった。

「そろそろ寝よう」

そう言うと、さっさと布団に潜り込んだ。

昨日と打って変わって肌寒い。7月目前というのに、2月中旬並の寒さだ。

「これはいかん」

と久しぶりに毛布を取り出し、眠りについた。

その日も、夢を見た。

荒廃したビル街。元は、オフィス街だったのだろう。

「ここは?」

彼は、叫んだ。でも返事はない。ただ、目が虚ろな人間たちが無気力に言ったり来たりしている。

「まさか・・」

昨日の夢を再現したものなのではないか。そんな気がした。

「ここは、未来の東京ということなのか」


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