第3話
翌朝僕は、いつもより早い時間に飛び起きました。昨日のことが夢だったのではないかと急激に不安になり、スマホからラインを開きます。
そこには、確かに福原くんのアカウントがありました。僕は恐る恐る、メッセージを送ります。
「福原くん、昨日のことなんだけど」
僕がそう送ると、すぐに既読がつき、返信が来ました。
「はい、見つけてくれてありがとうございます」
「えっと、僕たちって付き合うってことでいいんだよね?」
「はい。あなたのものです」
涙が出ました。嬉しくて嬉しくて、何度も小さくガッツポーズをしました。
それから僕は、冷蔵庫からバナナを取り出して、家を出る準備をしました。
あの祠に、お礼を言いにいかなくてはいけません。
ふと玄関先を見ると、一匹のウジ虫がうねっています。僕はウジ虫をそっと手に乗せると、家の外の土の上に置いてやりました。
自転車を走らせて祠に辿り着くと、祠を覆っていたウジ虫がまた、ぶわりと泡立ちました。僕は祠に持ってきたバナナをお供えして、手を合わせます。
ウジ虫たちは、なんだか嬉しそうにバナナに群がりました。
ありがとうございます。
ありがとうございます。
おかげで福原くんと付き合えました。
何度も何度も深く、心の中でお礼を言いました。
「こちらこそ、ありがとうございます」
後ろから声をかけられて思わず振り向くと、福原くんでした。
「付き合ってるんだから、一緒に学校に行きましょう」
そういって僕の横でしゃがむと、福原くんはお供えしたバナナを指で少しほじくって口の中に入れました。
「わ、虫がついてるかもしれないから──」
そういって止めようとしたら、頬にキスされました。
「汚いですか?」
「い、いえ」
いや、実際問題汚いしありえないんですが、惚れた弱みでした。
僕は祠に頭を下げると、その場を後にしました。
その翌日、福原くんの元カノが自宅で首をくくって亡くなりました。発見時にはすでに腐敗が始まっていて、ウジ虫が大量に湧いていたと言います。
福原くんはそれを聞いても「なくなりましたね」と笑い、僕の腕に腕を絡めました。僕は、彼女さんに対して震えるほどの優越感を抱きながら、彼の頭を撫でました。
学校では、福原くんの性格が以前と全然違う、と言う話もありましたが、僕は全然わかりませんでした。話したこと、なかったですし。
それに、福原くんのちっちゃい背丈も、くりくりの目も、サラサラの髪も変わっていません。
だからそれでいいのだと、そう思います。彼が可愛くて、そして僕のそばにいてくれたら、それ以外はどうでも。
この話を聞いたあなたも、そう思いますよね?
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