第2話

その日の夜、両親の帰りが遅く僕は家で、のんびりテレビをみていました。


何を見ていたかまでは思い出せませんが、ちょうどいいところでドアをノックする音が聞こえました。


(誰だろう、こんな時間に)


両親であれば鍵を持っているはずです。それに、インターホンを押さずにノックというのも不気味でした。


僕は恐る恐る、覗き穴をのぞきます。


そこには、福原くんがいました。


僕の大好きな福原くんが、一心にドアをノックしています。


僕は慌ててドアをあけました。そこには確かに福原くんが、寝巻きみたいな格好のまま、息を切らせてやっています。


「え、あの。ふくは」


言い切る前に、キスされました。何度も想像した、いや、想像したよりずっと柔らかい唇。


でもそれ以上に、彼の伸ばした舌が、ミルクやヨーグルトのような、甘ったるくとろりとした味をしていたことが、なんだか異様なくらい印象的でした。


どれぐらいそうしていたでしょうか。

ようやく唇を離した福原くんは、少し調子っぱずれな声で言いました。


「来ちゃいました」


え、よか、う、みたいな声が僕の口から漏れます。


「えっと、それはどう言う」

「見てくれたから」


まさかいつも彼を見つめていたことに気づかれていたのか、そう思い慌てて僕は取り繕おうとします。


「いや、それはあの、たまたま目で追ってたって言うか、いや、見てたのは、事実だけど──」

「見つけてくれて、ありがとうございます」


強く抱きしめられ、また口付けられます。やはり変わらず、とろりとした味がしました。


彼の細い腕の、骨の上に皮膚を張ったような感触が心地よくて、僕は、それ以上何かを言う気は無くなってしまいました。


ただ、一つだけ。


「福原くん、彼女いなかった?」

「気になりますか?」

「まぁ」


それは、気になるだろう。福原くんは目をパチパチして、ぎこちなく頭を動かした後、言いました。


「そしたら、あれはない方がいいですね」


その声は、なんだか複数人が同時に話しているような感じがしました。


「別れる、ってこと?」

「気になるなら、ない方がいいと思います」


なんだか少し、会話が成り立っていないような気がしましたが、僕はそれ以上に嬉しくて、


彼の目を見て、息を吸いました。


「あの、福原くん」

「はい」


僕は、吸った息を吐き出すように言いました。


「好きです。僕のものになってください」


曖昧にするのではなく、ちゃんと言葉にして言わなくてはいけないと思ったのです。


「はい、あなたがこれを好きなら、これはずっとあなたのものです。見つけてくれた、あなたのものです」


福原くんはこの上なく幸せそうに笑って、3回目のキスをしました。


その日は両親ももう直ぐ帰る時間だったので、今日から恋人であることを再三確かめて、ラインを交換してから、彼を家まで送りました。


外は夏の生臭い風が吹いていました。

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