うじがみさまのおんやどり

弓長さよ李

第1話

これは僕が中学生の頃に体験した、不思議でありがたい話です。


その頃僕は、ずっと片思いをしていました。


相手は1つ下の学年の福原くんと言う男の子です。


背がちっちゃくて、目がくりくりしていて、髪の毛なんか短いけどサラサラで


入学式の時に見て、完全に一目惚れでした。


でも、同性だったし、部活も学年も違って話す機会もなかったし、何より福原くんには彼女がいて。


告白はおろか話しかけることすらできなまま、1年過ぎました。


受験が始まり、みんなが真剣に勉強に打ち込み始めても、福原くんへの思いが冷めることはなくて、けれど、やっぱり接点を持つことはできなくて


それで、神頼みをすることにしたんです。


最初は恋愛にご利益があると言う神社やお寺にお参りするだけでした。


でもなかなか効果が現れず、段々ご利益に関係なくお参りするようになりました


家の近くにあれば毎日お参りして、旅行した時は必ずその場所にある神社やお寺に手を合わせて


それでもダメで、そのうち道のお地蔵さんや祠、誰のなのかわからない慰霊碑や由来のわからない記念にまで、毎日毎日毎日祈りました。


電柱や踏切の脇に花が備えてあっても祈ったし、友達の家に遊びに行った時の仏壇にも、縁もゆかりもない人のお墓にも祈りました。


ただひたすらに、「福原くんと付き合えますように」って、その一心で。


そんなある日のことです。いつものように自転車で近所の神社にお参りした帰りに、少し道を変えてみたんです。


単なる気分転換のつもりでした。


普段通らない道は片方が竹林に面していて、ザワザワと神秘的な音がします。そういえば自然にはまだ祈っていなかったな、と思って手を合わせようと自転車を止めました。


その時です。少し後方に、小さな祠があるのに気づきました。今まで見たことのない祠でした。


それが竹林とその横にある空き家に好きなから半分突き出すような形で道路の端にあって、うっすらと白く潰れかけたようなシルエットをしていました。


僕は、自転車を押しながら(白い祠なんて珍しいな)と思いました。けれど近くに寄って、別に祠が白かったわけではないとわかりました。


その祠には、ウジや何かの虫の繭がびっしりと張り付いていたのです。


よっぽど長い間手入れされていなかったんでしょう。中にあった御神体みたいなものはすっかり変形して、何が何だかわからない感じになっています。


一瞬ギョッとしましたが、すぐに僕はその祠に手を合わせました。


どんな状態であれ、神聖なものは神聖です。祈っておいて損はないでしょう。


(福原くんと付き合えますように。福原くんが僕のものになりますように)


素朴に純粋に、手を合わせて祈りました。


目を瞑って、一心に。


ふと、風が吹きました。生臭い夏の風です。


目を開けると、祠を覆っていたウジたちがぶわりと泡立ちました。まるで液体みたいに、一斉に蠢いて、それが木漏れ日をキラキラと反射していました。


それはすぐにおさまりましたが、けれど、祠には先ほどとは違うような、そんな雰囲気を感じました。


なんとなく、そこに何かおわすような。


僕は、祠にもう一度頭を下げて、その場を後にしました。

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