第13話 コードバトラー戦【裏】
アムダ君は気づいたら寝ていた。黒マスクをしている彼は沢山見たきたが、素顔はあまり見たことがない。
大会でもパーカーをかぶって、マスクをしていたし。
流石に寝る時は……マスクをとるのか。ふふ、思っていたよりも可愛い顔をしている。
「モエちゃん、アムダ君って可愛い顔してるねぇ」
「そうですわね」
チカもそう思ったらしい。
こんな可愛いテイマーがあそこまで強いだなんて……お父様とどちらが強いだろうか。
──まさか、お父様にも
──ワタクシは、彼のエキシビションマッチを思い出した。闘技場には声が届いていないが、あの時、彼は
会場中を釘付けにしていた
大会の優勝者は大会運営側が読んだゲストテイマーと戦う事ができる。それをチカと一緒に見るだけだった。
「負けたねぇ。二人でアムダ君に」
「そうですわね」
「反省会だね」
「ですわね」
『さぁ! 【森羅の導きの大会】エキシビションマッチが間もなく行われます! 実況は引き続きフルーツ系アイドル『ミックスジュース』のレモンと──』
『リンゴで行うよぉー』
試合がもう無いので、観客席に座りながらポップコーンを片手に解説を聞き流す。
『ここまでの戦いを見てリンゴはどうですか?』
『やっぱアムダ君凄いの一言でしょー。わたしじゃ、手も足も出ないかなぁ』
『エレメンタルコード15個持ってるリンゴがここまで言うなんて!! 私達『ミックスジュース』の中で1番強いのに!?』
リンゴって人、15個エレメンタルコード持ちとは凄いですわね。
『リンゴはグレンさんと戦った時あるんですよね?』
『あるよー。1分で3体倒されて、負けちゃったー』
『おお、グレンさん流石だね』
『レモンはグレンさんのお嫁さんと戦った時あるよねー』
『ホムラさんね! うん! 一撃も与えられず負けちゃったね!!』
あの方達、お父様やお母様の戦ったことがあるようだ。ワタクシはその解説を聞き流しながら、観客席の下にあるリングを眺める。
観客席は二階から、闘技場を見下ろせるような形になっている。
闘技場のように円形の作り、そこに四角になるように大理石が敷き詰められている。そのリングに【コード・バトラー】クサウチとアムダ君が上がった。
『さぁ、エキシビョンマッチスタート!!』
──戦う両者が繰り出すのは【ヴェルディオン】
『な、なんと互いに同じエレモンを使っております!! ヴェルディオン、植物系のSランクエレモンですね。非常に珍しく、強力なエレモンです』
『透明で綺麗な宝石みたいなエレモンだよねー、肌は透き通るガラス細工みたいでフォルムもトカゲみたいに特徴的ー』
『一度見たら忘れないエレモンですね! しかし、Sランクエレモンは中々捕まえられないから強いのであって、ミラー戦は非常に珍しいでしょう』
『みーんな、注目ぅー』
確かにSランクは強力だ、強力であるからこそ中々捕まえられない。言うことだって素直に聞いてくれないだろう。
だけど、それをここで、大会で両者出してきてる。使役して倒せる自信が互いにあるんだろう。
──最初に動いたのはクサウチ
「全力で行くぜ。【ウィザーウィップ】」
「──左、右、後ろ。そのまま一番」
草の鞭にて、アムダ君のヴェルディオンを攻撃する。しかし、それは難なく躱わされることになる。
『速い!! 両者共に!!』
『クサウチさんーの、ヴェルディオンが使ったのって、相手の攻撃力を下げる効果もあるよねー』
『命中した場合ですね。ただ、それを避けたアムダ選手のヴェルディオン、見事な身のこなしでした。あそこまでの速度ができるって相当ですよね!』
『ステータス相当高いだろうねぇー。どこまでかは分からないけど、残像見えたレベルだよー』
一見、両者互角に見えるけど……ワタクシには分かる。アムダ君の方が速い。まだ互いに様子見って可能性もあるけど。
『アムダ選手は、回避をする際の指示独特ですね。リンゴはどう思う?』
『私やレモン、その他のテイマーとは根本的にやってることは違うよねぇー。しかも、それにランク高いエレモンがちゃんと言うこと聞いてるしねー。相当な猛者だよねぇー』
『コード・バトラーのクサウチ選手はまだ分かるのですが、対戦相手のアムダ選手は駆け出しなのに、Sランクがこうも言うことを聞くものでしょうか?』
『──天武の才能があるんじゃなーい? こりゃわたしを含めて、ふぁんになっちゃいそー』
確かに、ランクが高いほど言うことを聞きにくくなるとはお父様も言っていた。ただ同時に優れたテイマーであれば、そんなことは気にしなくて良いとも言ったのを覚えている。
会場も盛り上がっている。Sランク同士のミラー戦、しかも互いにちゃんと指示通りに動くと言う点を加味すれば、凄腕のテイマー同士の対決であることは間違いない。
「クサウチはゴッドリーグはずっと行けなかったけど、ヴェルディオン持ってるなら行けるかもな」
「今までSランクは持ってなかったからな。いつものスタメンにこれが入れば、十分リーグ上がれる実力はあるだろうさ」
「相手も相当だな。ゴッドリーグ並みの試合になってるかも……リーグはチケット中々取れないし、高いしな」
「稀にあるよな。リーグじゃなくても、リーグに近い熱い戦いする大会」
周りの観客もこの試合には特に力を入れて観覧しているようだ。ワタクシも眼に力を込めて、瞬きなんて勿体無いことをしないように努めている。
『おっとー! アムダ選手のヴェルティオンが発光! しかし、それだけで特に何も無い!! リンゴ、どう言うアクティブスキルか分かる?』
『うーん、あの発光の仕方は見たことないスキルかなー? でも、アムダ君が意味ないことをするとは考えづらいから、バフじゃないー?』
アムダ君のヴェルティオンは発光をするが、それ以上は何もしない。一体全体何をしたのだろうか?
「あ? 何だ? もっかい【ウィザーウィップ】」
「左、下2」
再び、攻めに転じるクサウチ。草鞭二手の攻撃が放たれるが、迅速な指示と刹那の行動によってあっさりと避けられてしまう。
『またしても回避!! 回避されてしまってますが、今までの試合はほぼ不動で相手の攻撃をものともせず状態であった、アムダ選手。やはり同じSランクは攻撃を受けるのはまずいと判断してるのでしょうか?』
『うーん、ダメージどうこうよりも、単純に攻撃力下がっちゃうからかもねー。パッと見だけどステータスはアムダ君の方が高いから、ダメージの心配ってより、試合を決着させる手札を保っておきたいからじゃないかなー? リング外に弾き飛ばすには攻撃力必要だしねー』
『リンゴの見事な解説でした! やっぱり私より、上手いですね!! これ見ていて素朴な疑問なのですが、アムダ選手のヴェルディオンはステータスがパッと見でそんなに高いって分かるくらいなら、回避をテイマーが指示する必要あるかなと思っちゃいます? ある程度自由に動かしておけばよくない? 逆に混乱しちゃうんじゃないかなと』
確かにワタクシもそう思った。あのヴェルディオン自体が相当に強いだろう。それなら、もう全部自由でも良いんじゃないかって……
『うーん、確かにねぇ。でも、上から見るわたし達と下で戦っているエレモンは見え方が全然違うと思うけどねぇー。視野とかだって狭くなるしぃー。戦況だってめまぐるしく変わるからぁ、その度に選択肢も増えたり、変化するしー。そんな時、【迷い】を産ませないテイマーを優れたテイマーっていうんじゃないかなぁ? アムダ君はそれが分かってるテイマーなんだよ』
『おおー! なるほど! リンゴの解説は世界一わかりやすいです!!』
『まぁ、レモンの言うことも一理あるけどね。下手な指示なら自由にさせた方がいいし。今回みたいに大きくステータスがあるようなら意味ないって言うのもわかりかなぁー。でも、そう言う足し引きの考えじゃなくて、単純に自身のテイマーとしての指示精度を上げるってのが狙いのような気もするかなぁ』
なるほど……優れたテイマーは迷いを産ませない。確かにアムダ君は指示に迷いがないから、彼の指示に従うエレモンにも迷いがない。
「もっかい【一番】。そのまま【四番】」
連続、アクティブスキル使用……そして、発動までが速い!!
『速い! 先ほどよりもアクティブスキル発動が速いです! 発光がさっきより収まりも素早い気がしました!』
『最初は、探りながら使ってたねぇー。発動途中でも避けられる余白を残してたからあの発動スピードだったのかなぁ。寧ろ、今回のが本来の発動感覚なんだねぇ。だとしても速いねー。それに加えて相手がどの程度の速さを持ってるかが分かったから、連続で使っても問題ないと判断したんだねぇー』
『これが本当のスピードなんですね! だとしたら速い!! 早撃ちガンマンを見ているかのようだ!!』
『速いねぇー。ここまでの見たことないかもー。こっちから見て速いってことは、対面して見てるテイマーとエレモンからしたらもっと速いし、相当プレッシャーかかってるよぉー』
──そこから先は、ただただ毒によってクサウチが負かされる展開だった。ワタクシの時はきっと本気など全く出していないと分かった。
クサウチですら、本気など出す必要がないほどに、アムダ君とヴェルティオンは極まっていた。
『さて、優勝及び、エキシビションの勝利もアムダ選手でしたがいかがでしたか? リンゴ』
『率直に言うとびっくりしたー。あれはゴッドリーグでも余裕で通用するよ。正直ふぁんになった、推しってやつ? 最推しかもねー?』
『動画出てくれないですかね? 再生数伸びそうですが』
『アムダ君、そう言うの苦手そうだけど。でも、バズりそうだねー』
『あ、私達フルーツ系アイドル『ミックスジュース』は動画投稿をしておりまして、現在チャンネル登録70万を突破しています! ゲテモノ食べたり、体張ってバンジー、エレモンと相撲したりしてまーす! ぜひお願いします!』
このアイドルたち結構体張ってますのね……まぁ、良いですが。
振り返りを終えて、再び彼の顔を見た。あそこまでのエレモンを育て上げる強さ。エレモンが認める器。
テイマーとして完結している。
「ねぇねぇ、アムダ君のほっぺたちょっと触らせて〜?」
「……」
「お願い! 少しだけ」
「……」
「なにやってますの」
「いやー、ちょっともちもち肌みたいだったから触りたくて!」
ワタクシが真剣にエレモンを考えていたら、目の前でチカとアムダ君の妹が格闘している。
イヴちゃん、だったか。アムダ君の目の前に立ってじっと座っている。これ以上進ませないと言うつもりなのだろう。
手を見ると両手をクロスして『バツ』のマークを出している。
はぁ……まぁ、ワタクシはそろそろ寝ましょう
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