第2話 クラスで浮いている男子

 さて、エレ塾に入ってから早くも半年が経過した。


 半年過ぎた結果……ボッチ変わらず!!!!!!



 はい、変わらなかった。まぁ、病弱で前世でも学校通えたことがなかったからね。しょうがないよね。



 でも、クラスで成績は【1番】だった。1番と言ってもペーパーテストだけだからね。こんなんで何がわかるんだよって思うけども。





「はーい、アムダ君は今日も百点だねー」

「ど、どうも」





 担任である【ラリラ】からテストを返してもらう。テストには百点と書かれていた。まぁ、これくらいはねぇ。



 俺、エレモンと旅したいもの! ずっと病室の中で画面を眺めているだけだったから旅をしたいと思っていたんだ!!



 だから、頑張ってやるぜ! 絶対テイマーの資格獲得してやる!!



「テストだけ百点でもさ」

「実戦じゃないとさ」

「ぼっちだから、勉強しかすることないんでしょ」




 あ、周りから色々言われてしまっている。でも、実戦でも負けないような気はするけどね。流石に……この子達は廃人とかじゃないだろうし。




「えっとー。皆さんが入塾してから半年が経ちましたので、そろそろ【エレモンバーサス】の模擬戦をしてもらいますね」




 【エレモンバーサス】エレモン同士を戦わせることを指す用語。ゲームだとこれが醍醐味でネット対戦にもなっていた。




「でも、皆さんには捕獲の権限がありませんので塾側からエレモンを貸します。それを選んで模擬戦をしてもらいますねー。では、外に出ましょう」





 【ラリラ】にそう言われて外に出る。外に出る時も、圧倒的ボッチ。主人公【モエ】も特に俺とは関わらないし、もう一人のライバル枠の【チカ】も関わりが特にない。





 ──塾の外の広場に、一人で行った。そこにはエレモンバーサスできる広場ある。おお! ついにエレモンバーサスが生でできるのか!! わくわく!!






◾️◾️




ワタクシモエの隣の席の【アムダ】と言う男の子は不思議な子だ。



『あ、え、は、はい』



 いつもオドオドしてるし、人とは目が合わない。塾終わるといつも一人で帰って、図書館とかでいつも勉強をしている。




『陰キャだよね』

『いつもオドオドしててさ、目が合わないし』

『キモいよね、そんなのよりエレモンアイドルとかのさ、推し活の話しよー』




 女の子グループとかは彼が嫌いらしくて、いつも悪口を言っている。ワタクシは【チカ】と一緒だから、そんなに関わることはないけど。


 男の子グループも彼のことは嫌いらしい。見ていて、くだらないと思うが、なによりくだらないのが



 その男女のグループが悪口を言うために連んでいることだ。




「チカはどう思いますの?」

「ん? アムダ君? うーん、近所だけど話したことないんだよねぇー」

「いつも一人ですわよね……」

「心配してるのぉ? アムダ君はそう言うの気にするタイプじゃなさそうだけどねぇー。成績も1位だし、他のが雑魚に見えるんじゃない? って言うか、ボクに勝っておいて他の雑魚に負けたら許さないんだけどぉ」





 確かに成績はいつも1位、2位がワタクシで、3位がチカ。チカは自分より上の人には対抗心を出す子だから、こっそり、彼もライバル認定しているらしい





「はーい、それじゃ、最初は【アムダ】君とローズちゃんねー」





 【ラリラ】先生がそう言うと、アムダ君と彼が対戦する女の子が出てきた。ローズちゃんはアムダ君の事を隠キャとかチー牛とか言ってバカにしている女の子だ。



 ワタクシは正直、苦手な子、いや好きではないと言った方が正しい。






「え、えっと、よろしく」

「きも……お前みたいなのによろしくとか言われても困るんだけど」

「あ、俺のパートナーのエレモンに言ったんだけど……」

「……っ」





 あ、やばい、ちょっとワタクシ笑ってしまいそう……。アムダ君はかなり【天然】みたいな所がある。



 それに、【チカ】の言う通り周りを気にしていない。




 彼は周りから言われても、休むことはなく、言い返すこともなく……ただ、エレモンを知りたいと思っているだけ。




「それじゃ、アムダ君は『ブラックトカゲ』、ローズちゃんも『ブラックトカゲ』を使役して戦ってねぇ。【戦闘不能状態】、もしくは三分経過になったら終了」

「ブラックトカゲっ、そのイキリ陰キャを倒せ!」

「──楽しんで行こう」




 初めて見たかもしれない、アムダ君が笑ったところは……顔半分は黒マスクで隠れてるから全部は見えない。


 でも、あの青い瞳が微笑んでいるように見えた。ただ、どこか好戦的な思惑を孕んでいるような瞳に少しだけ、悪寒がした。





「ブラックミサイル!」





 アムダ君の『ブラックトカゲ』に対しての攻撃に対して、彼が出した回避行動の指示。



 ──その指示の声がとんでもなく聞こえやすかった。




「ん? アムダ君、思ってたより声大きいねぇ? ねぇ、モエちぇん?」

「そうですわね……お父様もお母様も良いテイマーはエレモンが聞き間違わないように指示を出すから声が大きく出来るようにすると良いと、仰ってました」

「ほぇ、ひゅー、やるじゃん。アムダ君」





 声がちょっと大きいだけじゃない、彼の指示は思っているよりも冴えているように見える。お父様……ほどではないとは思うけども。




「ブラックトカゲ、『ブラックミサイル』ッ! そのまま突進しろ!!」

「避けて!!」





 黒い大きなトカゲようなエレモン。ブラックトカゲ。大きさは70センチほど。互いのステータスや大きさは同じはず。


 なのにも関わらず、攻防はアムダ君が圧倒的な有利な展開で進んでいる。【ラリラ】先生もアムダ君に驚いているようだった。




「……へぇ、これはこれは。やるじゃん……流石は入試からずっとテスト1位なだけはあるね。もしかしたら、とんでもない【原石】だったりして……」




 【ラリラ】先生は元からアムダ君に目をつけていたようだった。教師として単純に悪口を言われたりしているから庇っている意味あるけども。



 でも、それ以上に単純に……彼が何か眼を引くような何かを持っているからだ。




「使えない……」




 彼に負けた彼女がから出た言葉。それを聞いた時、ワタクシはなんて哀れな人だと感じた。



 彼女は友達の輪に戻り、談笑を始めた。自分の実力の無さを認められない、そしてそれを周りも気づいてもいない。


 また、彼を差別するような眼で見ていた。





「ありがとう……良い動きだったよ。最高だぜ!」

「かげ……」




 エレモンと話す時、彼は緊張とかをしていないようだった。ニコニコ笑いながら、エレモンに彼は触れていた。




「そうか……こんな手触りだったのか!! おお! ブラックトカゲはこんな感じか!!」



 なにやら、テンションが上がっている。彼をジッと見ていると【ラリラ先生】がワタクシの方に寄ってきた。




「あっち側になれるようにね」

「え?」

「強いテイマーを目指すんでしょ?」

「は、はい」

「なら、彼と彼以外、どっちを目指すべきかは言うまでもないでしょ?」




 それだけ言うと先生はワタクシの元を離れて他の生徒方に向かった。



 結局、誰もアムダ君に勝つことはできなかった。【チカ】もワタクシも……




 ワタクシは自然と、彼を眼で追うことが多くなった。授業が終わり、帰りの道で彼と少しだけ一緒になった。




「あ、ど、どうも」




 アムダ君、ペコペコしてるの……ちょっと可愛い……。




「アムダ君はすごいですのね。あんなにエレモンに指示をして」

「へ、へへ、と、当然ですぜ……」

「どんな話し方……」




 こ、こっちを一切見ずにオドオドしている。対人会話が苦手なのだろうか。まぁ、あれだけエレモン知識があって、指示のセンスがあるならお釣りが来るくらいの要素であると思うが



「ブラックトカゲ、貴方に懐いてましたね」

「あ、そ、そうですね。ブラックトカゲは……尻尾を、つむじ状に撫でるとな、なつきやすい……」

「そうでしたのね?」





──そう言えば、彼は戦う前にブラックトカゲを撫でていた




そんな知識はどこにも……聞いたことないけども……。




「随分と詳しいのですのね」

「え、あ、はい」

「そう、エレモンの知識はどこから?」

「た、魂? ぜ、前世?」

「……そ、そうでしたのね」




 か、変わっているのは間違いなさそうですのね……。




「エレモン、好きですの?」

「めっちゃ、好きです……昔から、したかったから……」





 初めて、彼の本心が聞けた気がした。相変わらずこちらに視線を落とすことはないが、まっすぐ前を見ていた。




「会いたいな……あいつらに」

「あいつら?」

「え、あえと、な、なんでもないです」





 彼はそう言って、それ以上は何も言わなかった。【あいつら】とは誰のことなのかはわからないが。



 彼がエレモンを愛していて、熱意を誰よりも持っているのがわかった。




 ワタクシだって、熱意は負けないつもりだ。お父様やお母様はこの国を代表するテイマーだったから。


 ワタクシだってそのようになりたいと思っている。






「そ、そろそろ、俺はこの辺で」

「お待ちになって、もう少しお話ししましょう」

「え、あ、はい」

「ちょ! はいと言いながら帰ろうとしないでくださいまし!」





 彼は、はい! と言ったのに逃げようとしていた。話すのが苦手なのは承知だが、ワタクシとしては興味がある。



 彼のエレモンの知識や、才能に……








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