第2話

 「寺子屋ひまわり」は6時起床である。服に着替え決められた場所をみんなで掃除する。

 朝は忙しい、子供たちが掃除をしている間、朝食だけはスタッフが作る。子供たちでは時間が掛かるからだ。

 「寺子屋ひまわり」にはテレビがない。もちろんゲームもない。だが本だけはたくさんあった。全国から様々な本が贈られて来る。ゆえに子供たちは自然と本を読むようになる。桃香は子供たちに読み聞かせをして、よく言っていた。


 「本はね、人との出会いなの。本は人なの。いろんな人がいるように、いろんな本があるわ。良い本はね、いろんなことを気づかせてくれて、考えさせてくれる本よ」


 

 今日の朝食はベーコンエッグと納豆、お麩の味噌汁だった。


 「いただきます!」


 手を合わせてみんなで食事をする。


 ボランティア・スタッフの薫子が奈美に言った。


 「奈美ちゃん、今の靴はきついでしょ? 今日からこの靴を履きなさい」


 薫子は新しいピンク色の靴を奈美に渡した。

 奈美の顔が明るくなった。奈美はボロボロになった小さな運動靴を履いていた。

 それを見た桃香が薫子に頼んで靴を用意してもらったのであった。


 洋服は全国の支援者たちから送られて来た。

 新品の物もあれば、洗濯もしていない、穴の空いた物もあった。

 人はそれぞれだとスタッフたちは言った。

 「ひまわり」を応援してくれる人もいれば批判する人もいる。味方半分敵半分なのである。

 子供たちは無限の可能性を秘めている。桃香たちはそれを楽しみに活動していた。


 大手学習塾からの嫌がらせもあった。「寺子屋ひまわり」は無料で子供たちを教え、しかも進学校への合格者も多かったからだ。


 「うちの子供も「ひまわり」に入れたいわ、どうしたら入れるのかしら?」


 「寺子屋ひまわり」には問い合わせが殺到していた。


 「息子を「ひまわり」さんで勉強させたいのですが、どうすれば入れるんですか?」

 「残念ですが今募集は行っておりません」

 「嘘ですよね? 複雑な家庭環境の子供はすぐに入れるそうじゃありませんか!」

 「複雑な家庭とはどんな家庭ですか?」

 「片親だったり経済的に困っている家?」

 「あなたの家庭は複雑なご家庭ではありませんよね?」

 「普通ですけどそれが何か?」

 「塾はたくさんありますのでそちらへどうぞ。寺子屋ひまわりは普通の塾に通えない子供たちのための学びの場所なんです」

 「偽善者!」


 その母親は怒って帰ってしまった。


 「いやな感じですね?」

 「子供は母親の影響を受けて育つものよ。本当は母親を教育するべきなんだけどね? 母親学級、やりたいわね?」


 桃香は寂しく笑った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る