第10話 河川敷の思い出

「あ…ごめん…」


「大丈夫?心配だったよ…でも良かった。」




異世界転生のような経験をし目が覚める。


あれはなんなのだろう。


でもわたしと話していたし…夢にしてはしっかりしすぎていた。




「…あ、い、行こっかー」


「うん。でも気を付けて」




八重咲が言うに、もうすぐ”そのもう一人”と出会うらしい。


良い人なのかはわからない。名前も知らない。


そんな人物に出会って、この人だと気づけるのだろうか。




「あなた達ちょっと止まって」


「え?」




つばきちゃんではない別の人の声がわたし達の歩く足を止めた。


そこにはお嬢様のような身なりの女の子がいた。年は同じくらいなんじゃないだろうか。




「話すのめんどいから早めに終わらせるね」




女の子はこちらに近づいて来る。動こうと思ったときには足が石化したように動かない。




「君は…多分さくらの相手だからいいや。あとになってめんどくなりそう。」




そう言い放ちつばきちゃんの横へ移動する。


さくら…八重咲もそういっていた。


この子はさくらちゃんを知っているのだろうか。




「ごめんねー。わたしもこんなことしたくないんだー?でも自分にだるい未来が待ってるならしょうがないよね」


「…は?やっ、やめ………っゔ…」


「心臓どこだー?人殺しなんか初めてだからさー。えへへ」




微笑みの中に悪魔が宿る。


体内に木の棒がめり込み、くるくるつばきちゃんの中を掻き廻す。


女の姿で見えはしないが大変なことになっているようだ。


しかし気持ち悪さよりも先に、自分が横にいるのにも関わらず助けられないという不甲斐なさが降りかかる。




「おい!誰か知らないけどふざけんな!!やめろ!」


「お前うるさいな。糸で縫い直せば元に戻るのに…もういいや。近所に迷惑だしお前も」




魚を捌いたときでしか見ることのない血に装飾された包丁の刃をわたしに向けられる。


動くことができない以上、何かに願うことしかできない。どうか助けてください誰か。




願い事って意味があるのだろうかと昔から考えていた。




「」




七夕に将来を願い、クリスマスに贈り物を願い、一年の始まりに今年を願い、一年の終わりに来年を願う。


誰に願っているのか。そんなこともわからずに。


結局、将来やりたいことも途中で諦めたり変わったりする。


クリスマスはサンタではない人からの贈り物。


来年、今年の平和を願っても災厄は起こる。


神様だって何人もいるだろうに。




「あ…れ…」




道に倒れるは二人。


通り魔の女の子とつばきちゃん。




「…誰かが助けてくれた……の?」




血の海なんて想像できなかった。


そもそも比喩表現だったり想像上の存在だったりするからだ。


でも初めてその比喩表現が間違えではないと知った。


バラの花びらが一面に散ったよう赤く染まり、いつかはここで何もなかったという風に綺麗に戻され。


どうしようもなく崩れ落ちるだけのわたしがそこにいて。


平和ボケがまた崩れ。


最初への一歩を刻む。






──




「今りあが死んだけどどうする?」




「え、まじ?じゃあどうかしないとだね」




「ききょう行けよーさくらじゃないとあいつは殺せないだろうし」




「まあそうなりますよね。はいはい。」






─ ─ ─




とある少女は友達がいなかった。


荒れた家庭で育ち、過ごす場所もない少女は河川敷にある段ボールでできた家を訪ねた。


「こんにちは」そう彼女が言う。そこには優しそうなおじさんがいた。


「どうしたの」と聞くおじさんに少女は適当な返答をする。「私、家出したの」


それを聞いたおじさんは少女の服を脱がせ言った。


「一生一緒にいてくれたらここに住ませてあげるよ」


そんなおじさんを少女は嫌がり助けてと叫んだ。




そんな場面に出くわした峰山椿ちゃんはどうしていいかわからず、とりあえず警察を呼んだ。




10分後、警察が到着し事件が起きたらしき場所に行ってもらうと、慌てた様子で応援と救急車を呼ぶ。




事情徴収が長々と続く中、


救急隊員がそこから連れた人間は、裸の中学生くらいの女の子と同じく裸のおじさんだった。




後日、ニュースを見た時には後悔しか残らなかった。


彼女の唯一の


河川敷の思い出。

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