第9話 社会科見学
憂鬱なつばきちゃんが元気を取り戻して仲良し組が揃ったいま。
解決策を提案しあうため、とりあえず今日は帰ることとなった。
とは言っても解決策やら改善案やらの前にこの事象がなんなのかよくわからないんだけれど。
「どうしたものかな~」
難題を目の前に知能を巡らせている。
状況の整理をしなければ。そんなことを考えていると正面のものに気がつく。
「…なにこれ……危ないな…」
胸の位置に張られたギターの弦より強固としていて、手芸糸に劣らない細さのワイヤーのようなもの。
これにはよく気づいたなと思う。
でもそんな気づいた時には、
「……たぁ…」
防衛本能か手が触れていた。
導火線に火を着火したように、空中に赤い下線が引かれていく。
線の始点は自分の手のひらにあり、自然と見つめた左の手のひらには直線の溝があって。
「……ぅ」
赤いインクが腕を伝う。
人間は危機に瀕した時、本能が働くらしい。
本能に動かされ振り向きかけたその矢先、躊躇なく押しだされた身体は思うように動かず視点が異常に変化しやっとの思いで犯人を見た頃には視界が暗転しそれが誰かを理解するに足らなかった。
──
解散してからの帰り道。つばきちゃんと共に歩く。
「送ってくれてありがとー本来送るべきなのはこっちなのにね」
「あたしの家に皆が来てくれたからね。コンビニに用があったし。」
「そっかー…」
久々の会話だ。
といっても何年ぶりとかではないのにどこか新鮮味を感じた。
「なんかこれから大変そうだねー」
「そうだね。意味がわからないよ。」
「もし次もまたひどい目にあったら、さらに一年前に…」
そんなとき、急激な目眩に襲われる。
「あ、あれ…?」
「きくちゃん…?…きくちゃん!!」
~
赤い湖の中心に小さな神社が建っている。
そこに架けてある橋をなんとなく歩いてみる。
神社の前に辿り着いたとき袖から少女が歩いてきた。
「こんにちはー。八重は『八重 咲やえ さき』と言います。あなたが菊ちゃんさんですね?お話は常々聞かされてますー。」
茄子紺の髪の少女。
見た目で言えば中学生やそこらといったところ。
黒い浴衣を着ている。
「あれ?なぜわたしの名前を?ここはどこなんですか?」
「ここは殺傷の加護庭ですよー。」
”さっしょうのかごにわ”。
漢字は殺傷?のー、篭庭?加護?
「なんですかそれ…というかあなたは?」
「んー菊ちゃんさんは八重より年齢が高そうな見た目をしてるのでタメ口で大丈夫ですよ。八重は菊ちゃんさんともう一人の華主です。」
「あ、じゃあわたしも菊ちゃんでいいよ。でーもう一人というのは?」
「桜ちゃんですよ。まだ出会ったことありませんでしたか。」
「これから会えるの?」
「あはは。近々会えますよ。」
どのようにして出会うのだろうか。
急に転校してきて実はわたしの幼馴染でしたー!的な展開になるのか?
「じゃ、じゃあ殺傷の加護庭っていうのは…」
「んーそれは言えないですかねー」
「そっかーじゃあ、いまなんかわたしに対して助言するなら何て言う?」
「お前は自分中心に物事が進んでいると勘違いをしているようだがそんなわけない。お前は周囲から見放されているんだよ。自分の中で抑えておけば良いものを言霊にしてばらまくことで承認欲求を求める、自慰行為しか脳にないある意味人間味のすり減ったゴミの塊。」
「…え」
「って言いたいところなんだけど要約すれば、周りに頼れ。感情を抑えろ。余計なことはするな。ですかねー?」
なんだこの子は。
突然饒舌に罵ってきた。
わたしになんらかの恨みでも持っているのだろうか。
「あ、ありがとう…華主っていうのはわたしに助言したりする人って認識であってる?」
「本来の意味とは違ってきますがまあ、菊ちゃんが馬鹿なのでまた次あったときは助言の一つや二つしてあげますよ」
絶妙に馬鹿にしてくるところ、あまり長時間話したいタイプではない。
同族嫌悪ってやつ。似たような血を感じる。
「おっと、今日はもう時間ないのでまた!」
「あ…」
不意にこぼしたその言葉を最後に世界は真っ白に染まる。
再度、寝覚めたその場所には電信柱とつばきちゃん姿があった。
─ ─ ─
人々は成長するために人を見て学ぶ。
「わたしもこうなりたいな」「この人大人っぽいな」動機は様々。
そこからどう変化をしようが本人次第だが見ることによって心が動くのならそのために配慮するのがまた大人だろう。
それがスタート地点。新たな始まりの場所。
社会科見学
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