第8話 端から橋まで怠惰かも




酷い夢を見た続き。


夢は途切れて違う夢となり。


大きな神社の両脇に並の大きさな川がある。


川の辺には数々の彼岸花が咲き乱れている。


そんな神社の賽銭箱の前の階段に1人の女性が居た。









毎日の波に流されるあたしがいる。


何者かに憑依された自分がそこにいるかのように。


決まった未来に進んでいき、操られているような虚無の世界を歩んでいく。


間違えじゃないこの世界。




「…。」




残酷な世界の使徒は一般人に悪夢を見せる。そんな気まぐれに踊らされ憂鬱になる人間を嘲笑うのだ。


もし神様がいるのなら同じように笑うのだろうか。


あたしは笑っているのだと思う。繰り返す苦しみがどんどんと増幅し、やっと前を向いた人間の成長を端から見守る。一種のドラマ感覚なんだ。


もしそんな演劇に巻き込まれたりするのなら何度もくじけて諦めず元の世界に戻ろうとするのだろうか。


他愛ない考えをしながら安眠を取るのも得策なのである。




時刻は午前11:00。


昨日の鬱屈としたつばきちゃんを見てどうしたものかと考え堕ちる4人がそこにいた。




「なんかいい案ないかなー」


「元気づけるためにできることとか~?」


「プレゼントあげるのはー?*」


「掃除用具セット?」




流石にプレゼントで掃除用具セットはないだろう。


好きなものだし活用方法も沢山あるけれど一応女子高生だし。


無難にハンドクリームとかが得策…なのかな?




「オムライスを作ってあげよう!!!!」


「やっと喋ったかと思えばなにを馬鹿なことを…」


「名案だとは思うけど~食欲もなさそうだったしね~」


「ももはそれでもいいと思うよ*元気がないだけなのきっと*」




「じゃー作る?」




愛情のこもった食事を提供。それで元気付くものなのか?普通はそれでも嬉しいんだけど状況が状況。


わたし達の飲み込みが異常に早いだけだ。1年経っても立ち直れない。


第一わたしだって相談したら乗せられてここにいるようなもん。




「カレーってなにいれるの?」


「いつからカレーになったの?」


「オムライスでしょ~」


「オムライスっても何をいれるの?*どんな感じにするの?普通の感じ?ふわとろ?もえもえきゅんするの??*」




「食に対して熱が高いことは良い事だけどもえもえきゅんはしなくていいよ」


「オムライスってきゅうりいるよね!?」


「いらないよ~」




ちゃっちゃと会計を済ませ店を出る。




「でも料理なんかしたことないよ?」


「簡単だからみんなにもできるよー*」


「そうだね~」


「ってオムライスにきゅうりはいれないってば…なんで買ってるの」




みぃちゃん…こいつは本当に馬鹿なのか?いくら一年前に戻ったとはいえ中身が戻ったわけではない。


言っても高校二年だぞ。いやもとから馬鹿だったか。


とりあえず材料を買い台所はつばきちゃんの家で借りることになった。


保温状態とか後片付けとかわかるよ、だけどどうなんだ?それは。




「さあ!!作るぞー!!!」


「おー*」


「大丈夫か?」


「いいね~こういうのも~」




不安でしかない。


普段運動やらアニメ見るやらのわたし達にこんなことができるのか?


あめたそいるし平気か。






──




「…?」




なにこの良くも悪くもない出来は。


そんなこんなで作り上げたオムライスは邪魔が沢山いて結局ほぼあめたそ1人で完成させた。




「ていうかなんで結局きゅうりが上に乗ってんだよー」




綺麗にスライスして乗せても変わらないからね。全然いらないよこの食材。




「まあ~でも美味しそうにできたじゃん~」


「いや…味は悪くないんだろうけどさー」


「ももが食べたいなー*」


「みぃ達が作ればこんなもんよ!!!!」


「食べちゃだめだよ?あとみぃちゃんはきゅうり切っただけでしょ」


「きくちゃんこそなにもしてないでしょ!!」


「はいはいどっちも何もしてないよ~」




さて、実際は味よりも見た目よりも心を動かすことが大切だ。


あんな状態の人をどうにかできるのは友情によって作られたオムライスだ!なんてことを言って作ったわけなんでけど…




「喜ぶといいね*」


「そうだね~」


「うん…」




作っている最中も二階から声は聞こえなかった。


相当参っているんだろう。解決してくれる真の存在は時間。そいつだ。時間こそ今は敵なわけだが。


ももちゃまが部屋のドアをノックする。




「つばきちいるー?*」


「なにそのあだ名?」


「つばきちw」




声はしない。それどころか物音もしない。




「開けるよー*」




ゆっくりとドアを開く。


前はぐったりとしながらベッドで寝転んでいた。しかし、




「いない?*」




「わっ!!!!!」


「うわあああああああああああ」


「つばきち~どうしたの~」




唐突な大声の主はつばきちゃんだった。




「え…?」


「なんか皆であたしのことを元気づけようとしてる姿を見てたら悪いなーって思っちゃって。ね。」




正直びっくりした。


行動したとはいえあそこからこんな短時間で立ち直れるはずが、そう思っていた。




「つばきちゃん…」


「これ、食べて*」




日常がヤバい!とケチャップで書かれたオムライス。


丸テーブルを皆で囲って眺める。




「…ん」




さっきまでから元気だったのに涙ぐみながら貪る。




「これきゅうりいらない。」


「ほらー」


「え、!あー!水分だよ!!」


「あはは」




こんな平和な時間が続けばいいのにこれだって事なかれ主義から生まれたイベントだしやはり、わたしの日常は間違っているということで。




「でもつばきちゃんはなんでこうなっていると思う~?」


「んー。わからない。何者かに操られているとか。こんなこと言うのは変かもしれないけど、実際悲惨な運命を目の当たりにして一年前に戻っているともなればそんなアニメみたいなこともあり得るかなって。」


「なにそれ凄い!!」


「わくわくするねー」


「そんなこといってられないよ*」


「なんかわかる気がするかも~まあ今日はとりあえず家に帰ろっか?つばきちゃんも元気になったことだし」


「そうだね~」




ひどい苦痛を味わってもそこには少しの希望がある。


そう勝手に決めてわくわくする。


こんな状況でもわくわくが1%あるからわたしは




端から橋まで怠惰なのかもしれない。

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