第3話 果糖と純情と位置の違い。
ああ。世界なんて滅べばいいのに。
そんな思考が頭をよぎる。
変な時間に起きたわたしはなんとなくアニメを見始める。
予定ができない限り堕落を極める、わたしのルーティンなのかもしれない。
アニメがエンディングに差し掛かったあたりでスマホの通知が鳴った。
「んー?あー夏祭りかー」
夏祭りの予定が決まったらしい。いつかと思えば明日らしい。
処暑、厳しい夏の暑さに怯み篭もり抜いたわたしの夏。
人混みは人がゴミのようにいるというところから来ていると誰かが言っていた。明らかな後付に思えるが共感しないこともない。
そんな8月22日。
──
ドンドコドンドコ太鼓がなる。午後6時。
秋手前といっても人口密度で蒸し暑く、服の中が蒸れそうだ。
霞む境内の下に見覚えのあるメンツが居揃っていた。
「久しぶりー待ったー?」
「待ってないよ。元気そうで良かった。」
「お*久しぶりーきくちゃん」
「よーし!いこー!!」
「きく去年ぶりだね。最近どうしてるの?」
「まあずっと変わらないなーつばきちゃんこそ掃除してる?」
「なにその申し訳程度のあたし要素。」
この子は『峰山 椿』ちゃん。
黒髪姫カットロングで掃除好きの女の子。中学の頃、みぃちゃん経由で知り合った。
掃除好きでお分かりの通り結構というかまあまあの完璧主義者。
「きくちゃん何食べるー*」
「ももちゃま今もたくさん食べてるの?」
「ももは食べて寝るだけで幸せなの*」
「あはは…」
ももちゃまこと『萌実 桃』。
茶髪でミディアムボブの寝て食べてな女の子。いつもふわふわしてて皆の癒やし。
小動物を見るときと同じ気持ちで話せる。
あめたそ、みぃちゃん合わせ5人で仲良し組。
「きくちゃんはなに食べる?みぃは全部!!」
「あーじゃあわたしも全部ー」
「ももだって全部食べるもん*」
「じゃああたしは半分で。」
「それも多いと思うよ~」
わちゃわちゃ久しぶりの会話をしていれば賑やか屋台の並ぶ場所まで来た。
歩く人達皆笑顔。良いところだ。こちらまで笑顔になれる。
「焼きそば食べたい~*あ!先チョコバナナ食べよー*」
「あ、わたしも食べるー」
「きくちゃん!ももちゃま!みぃも食べる!!」
「待って勝手に行かないの。」
「えへへ~行こっか~」
金魚片手にりんご飴。
ももちゃまとみぃちゃんはとてもはしゃいでいる。
でもそれについて行くのは楽しい。
「あ。花火だよ。」
「たまやー!!」
「かぎやー、たまやかぎやってなんなの?」
「それは花火屋さんの名前よ。」
「おー*つばきちゃん頭いい*」
「そ、そうね。あってる。」
「そうだね~頭いいね~」
「えへ。」
こういう日が青春の思い出となるんだろうな。まるで夢のなかみたいだ。
「そろそろ帰るかー」
「え!まだこれからでしょ!!」
「いやーもう疲れたし」
「それはきくが引きこもりだからでしょ!!高校も中退するし!」
「え?なに急に、喋り方からうるさいんだから、ちょっと考えてはなしなよ」
いきなりなんだ。高校中退は疲れたに関係ないだろ。
急に槍が降ってきたような悪口言ってきやがって。普通に楽しくやろうと来たのに。
妄想は事実へと変えられないんだな。全然理想の夏じゃない。
「もう帰るわ、ほかの人達は遊んで帰んなね」
「あ!ねえ!」
「まあ私もやりたいことやったし帰るよ~また今度ね~」
「眠いし帰る~*」
「…!」
「帰ろうか。」
──
「やっぱきくちゃんはきくちゃんだよ!なんも変わってない!!悪いのはきくちゃんなのに!」
「まあどっちにも悪いところはあったよ。lineでもして謝ろ。」
「あっちから言うのが重要なの!」
これもツンデレたる所為。しょうがないはしょうがない。
喧嘩するほど仲が良い。いい言葉だ。
「まあでもなんやかんや仲いいよね。」
「それは当たり前でしょ!!きくとみぃの仲なんだか…まあ悪いのはみぃじゃないけどね!!」
「意地でも譲らないんだ」
平和とはなんだろう。なんやかんや100年に1回戦争はあって。ひどいところはずっと続いてて。
比喩にもならない音がする。
「みぃちゃん?」
平和なところはそのために努力をしてて。
事実は小説より奇なりで。
「みぃちゃ…ん?」
より良いところに行っても結局は元の木阿弥で。
「みぃちゃ…」
滲むコンクリートに食べかけのりんご飴が落ちる。
「え……?」
噴水よりも丁寧に。
練乳のようにドロドロし、ガムシロップみたいにさらさらと。
自分に移して考えれば努力がすべて意味なくなるということ。非日常。
通行人により呼ばれた救急車がさらに椿の眼球を赤く灯す。
普通の人間は甘くなく純情で。2次元と3次元ほど位置に違いがある。
それは、
果糖と純情と位置の違い。
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