第2話 甘ゆ優待に甘える

だらだらと堕落して。


ごろごろと娯楽に塗れる。


昔は可愛いとか言われていたのに今は見向きもされないで、そんなことを考えると泣きたくなる。っていう人もいるだろう。


好きの反対は興味ない。とても深い言葉だ。




「自分が良ければいいのにしっかりしろとか…偽善が過ぎるって」




そんなこんなで今日も普通に生きる。


なにやら今日はわたしにイベントがあるらしい。っと思えば”彼氏ができる”とか”地球滅亡”とかそんな妄想のうちなイベントはそうそう起こらず。


まあ後者は起こるべき事象ではないのだけれどね。




「でも楽しみだなぁー」




なんせ中学来の親友と会える。中学校を卒業してからは年に1回くらいの頻度で会っている。


そんな年1イベントが今年も来た。




「ん~…待ち合わせ場所行きます、かぁぁぁあ…。」




外は嫌いじゃない。ただ人目と日差しが嫌いだ。わたしをまじまじ見つめてくる人目も引きこもるわたしの体を照らす日差しも嫌い。


外が嫌いになるのは必然なのかもしれない。36℃。猛暑日。




「地球滅亡もない話ではないのかなー」




それにしてもただ歩いているだけなのにこちらを見てくる奴はなんなんだ。


こっちも見返してるから目が合うんじゃない?と思うかもしれない。いや、まあそうなんだけど。


前から歩いてくるときにこっちを見るんだって。引きこもりはだらだらするときの態勢があってそんな態勢をしているとだんだん普段の姿勢が悪くなっていって、歩くときも猫背気味になって。


確かに自分は普通に歩いているときに……


いやそんなことはどうでもいいんだけど…


すれ違い際にこっちを見てくる奴には、「むかつくな。くたばってくれないかな。」などと愚痴をこぼす。




ネガティブな思考の末、自己嫌悪に陥らず”まあいっか”で終わらせられるところは自分の長所だ。


そんなこと考えていればあっという間に目的地に到着。






「やっはろーあめたそ~」


「久しぶりだね~。で、やっはろーてなに?」




彼女の名前は『待雪 飴』。


黒髪ショートボブでゆるふわ。誰彼構わず優しく接する、まるで女神のような天使。


怒ったところは見たことないし本当に神によって作られた存在なのでは。




「それはねーお礼参るの…」


「もう大丈夫~」




わたしの唯一の特技、いや趣味の話が…


でもあめたそがいつも通りで安心した。


一年経っても包容力の塊でおしとやかで心地がいいとかやばい。




「じゃあそこらへんの喫茶店でも行こっか~」


「うん」






ー警視庁によりますと、通り魔は同一犯と…






「なーんか物騒だね」


「そうだね~近いし気を付けないと~」


「そんなことより元気だった?」


「そんなことって……私は元気だったよ~きくちゃんこそ最近なんかあった~?」




あるわけないじゃーんとかいいながらメニューを開く。


砂糖と塩の金平糖やら珍しい品が多くある。




「ロイヤルミルクティーください!」


「じゃ~私はこれとこれ~」




少々お待ちくださいと新人らしき店員さんが元居た場所へ戻る。


待つ間、中学校の頃の話をして和む。


やはりこういうことは重要だ。引きこもるだけではだめなんだ。




「そういえば中学の皆とは会ってないの~?」


「んーあってないねー、去年夏祭り行ったきりかな?」




中学の皆、いつも一緒にいた仲良し組。




それは中学3年生の頃、同じクラスで隣の席だったあめたそとの話。






「あ、あのわたし寒白 菊です。よろしく…」


「よろしくね~私は待雪 飴」




そんなことを話していると、バンっと豪快に教室の扉が開かれる。


金髪ツインテールとかいうtheアニメキャラ設定みたいな女の子がこちらに駆け寄る。


内気なわたしがこんな目立つ子となんかの因縁あったっけな。などと考えていると。




「あめたそ!部活どこ入るの!!」


「あ、みぃちゃん~」


「ん!なにこの子!まいっか!よろしくね!」


「あっうん…」




あめたそとの知り合いらしくついで程度に声を掛けられた。




回想終わり。




「それからいろいろあったねー、ももちゃまにあって…」


「そうだね~つばきちゃんに怒られちゃって~。あっそういえば今週夏祭りだし、連絡してみよっか~」


「ん、いいね。皆誘おうよ!」




「お待たせいたしました……あっ!」




唐突な悲劇は時間を少し遅く刻む。


おぼんを滑り落ちたその円柱は空中を舞う。


それは見事にわたしの頭上をくるくる目掛けて降ってくる。


抗う間もなく避けられないわたしはミルクティーを被る。グラスは奇遇に机で割れた。




「大変申し訳ございません!お怪我はありませんか?!」




全力で謝る店員。


幸せなことに今日は真っ白な服を着てきた日だった。




「全然大丈夫ですよーでも服が汚れちゃったので今日は帰りますー」




よく丁寧に返したもんだ。


気分が悪いので颯爽と席から立ち上がる。後ろから「大丈夫ですので…失礼します」とあめたその声が聞こえた。店を出るわたしをあめたそは追ってくる。




「大丈夫?コインランドリー行く…?」


「いいよー今日はもう帰ろっかな」


「きくちゃん……あ、皆来れるってさ~。た、楽しみだね!」


「うん予定決めといてー」


「わかった~…」




憂鬱だ。


数日前から楽しみに待っていたのに。なんだあの店員。


新人ならしっかり教育しろよ。様々な暴言が頭を巡る。くるくる脳を駆け巡る。


家まで送るよというあめたその気遣いを断り、陰を纏う。




ぐだぐだと歩くわたしを通りすがりの人が見る。


歯ぎしりか、肩こりか、腕がなったか、比喩にもならない音がする。


どうやら神様がわたしに外に出るなと命令してるのかもしれない。


まあいいかと切り替えたときには家にたどり着いていた。




災厄が降り注いだらすぐさま平和を願い、人々は優しさに甘える。


それはどんなしょうもないことでも成り立つのだ。


人々は、




甘ゆ優待に甘える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る