好きを伝えに
第4話
夏休み、私達は朝からおばあちゃんの庭の畑仕事を手伝っていた。暑くても朝から汗を流すって意外と気持ちよくて、夏休みに入ってからは日課のようになっている。
「英!倉庫からスコップの入った箱を持ってきてもらっていいかしら」
真っ赤に熟れたトマトを収穫していると、英が大きな箱を持って歩いていくのが見えた。私は言われた野菜の収穫。料理の得意な色は朝ご飯を作りに家の中に。あまり体力のない歌は水やり。反対に体力のある英は荷物運び。暑さに弱い音は家の中で色の手伝いをしていた。ここでも私達は効率よく進めるために、役割を分担している。
「おばあちゃーん!トマト、家の中に置いてくるね」
「ありがとうね、麻」
大きなトマトが入ったカゴを抱えて家の中に戻ると、こんがりと焼けた鮭の匂いがした。
「今日のお味噌汁の具はなんだろうな〜」
軽い足取りで土間に降りる。おばあちゃんいわく、今年の野菜の出来は去年の比ではないくらい立派なのがたくさんできているらしい。土間全体を埋め尽くすように置かれた大量のカゴの中には、どれも立派な野菜が入っている。私はちょっとだけ嬉しくなった。
「そういえば、あなた達、お母さんのことは好き?」
6人で机を囲んで朝ご飯を食べていると、おばあちゃんがためらうような素振りを見せてから、私達に聞いた。
そんなの、もちろん。
「「「「「好きだよ!」」」」」
「…じゃあ、その気持ちを伝えたことはある?」
なんだか今目の前にいるおばあちゃんは、お母さんが出ていった時のおばあちゃんと似ている。
「それは…ないかも」
色が「ねぇ?」と言って私達を見る。確かにお母さんは、私達を養うために朝早くから夜遅くまでずっと働いていた。会えない日が続くのなんて当たり前。“好き”の2文字を伝える暇もないくらいに。
「でも、急にどうしたの?」
音がお茶を一口飲んでから聞く。
「言ったことがないのなら、あなた達も
久々にお母さんの名前を聞いた私達は、一瞬時が止まったように固まる。
「今日も色のお味噌汁は美味しいわね」
それからおばあちゃんは、何事もなかったかのようにお味噌汁を啜った。今日の具は、おばあちゃんの畑で採れたナスとワカメと豆腐だった。
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