第8話

 ドッペルゲンガーが見えた時から死ぬのかもと思っていたし、わたしとドッペルゲンガーが死ぬ方が妥当なのかもしれない。でも、友達のために自分の命を捨てる必要はないんじゃないか。

「もし伊上先生を消したとして、その代償って何なの?伊上先生が消えたらドッペルゲンガーも一緒に消えるの?」

それがわからないと話にならない。わたしとドッペルゲンガーが死んだとしても、伊上先生のドッペルゲンガーがそのことをわからないという可能性もある。

『それは、やってみないとわからないけど、ドッペルゲンガーも一緒に消えるのは確かよ』

表情1つ変えずにドッペルゲンガーは言った。

 何を選ぶのが正解なのか、今のわたしには考えることさえも苦痛で仕方ない。

『わからないから、その代償が“死”っていうこともあるかもしれないってこと。忘れないでね』

ていうか伊上先生のドッペルゲンガーは、わたしが消えただけでちゃんとわかってくれるんだろうか。

『なんか…質問が多いわね。まあ、大事なことだしいいわ。伊上は、今までにも彼女にフラレれて自殺を図ったこともあるメンヘラ男っぽいの。だから、今回も似たような状態になるでしょ』

つまり伊上先生の性格を考えて、ってことだな。あんな友達のためにここまでする自分が嫌になってくるが、わたしの考えは変わらない。

「ドッペルゲンガーが見えた時から、死を覚悟してたし。死ぬ以外の選択肢はないよ」

少しの間沈黙が続いた。わたしもドッペルゲンガーも、お互いに何も言わない。けれど、わたしはその間1度も目をそらさなかった。

『本当に、それでいいのね?』

「伊上先生が急にいなくなったら、問題になっちゃうでしょ?わたしの死なんて、事故ってことにすればなんとでもなる」

いろんな人の中の、伊上先生の記憶ごと消えればいいのに。

「―それに。伊上先生を消してわたしまで死ぬくらいだったら、自分から死んでやる」

格好つけたいわけじゃない。純粋にエミリを助けたい。それだけは、変えようのない事実だった。

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