第4話

 教室に入る前に、1度深呼吸をする。何があっても口に出さないように。あいつのことは無視し続けよう。

「おはよー!」

 いつも通り元気に挨拶をしながら、教室に入る。

「あ、おはよー。碧聞いてよ!あたし彼氏と別れた‼︎」

「え、マジ!?」

 友達の峰高エミリ《みねたかえみり》は、特に何も怪しむことなく話し続ける。

 もしかして…バレてない?

『安心していいわ。バレてないから』

 ドッペルゲンガーは、わたしの机に足を組んで座っている。背格好がわたしそっくりだから、足は長くないけど…。

「でね!あいつ、あたしの弟見てなんて言ったと思う!?」

 エミリは、正真正銘のブラコンだ。高校生と、まだ生まれて間もない弟。可愛いのも仕方のないことかもしれない。

「さあ…。なんて言ったの?」

「ただ一言!『思ってたより可愛くない』だよっ!?ありえない!!こんなに可愛いのに〜っ!」

 そう言って、スマホのロック画面を見せてきた。カラフルなブロックを持って、満面の笑みで笑っている。

 まあ…怒るのも理解できる。確かに超可愛いんだから。

「うん、別れてよかったと思うよ」

 わたしはリュックを机の横に掛けて、椅子に座る。

「そうだよね!?今まであんなのと付き合ってた自分が信じられない」

 その元カレ、隣のクラスの担任で、伊上いがみ先生なんですけどね。

 あー…これから絶対にやりづらくなるじゃん。その度に間に立たされるのはわたしなんですけど。

『ま、ガンバッ!!』

 うるさいわ。

 表情を変えずに顔と体は友達の方に向けたまま、心の中でドッペルゲンガーに返答する。わたしはその時、この事態を面倒なことになったなぁ…としか思っていなかった。

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