第12話

 灯と聖は結局君のことが見えないまま時が過ぎていった。

今日で夏休みも終わりだ。

「明日から、昼間は皆家にいないね」

灯は今日も夏期講習で、聖は今リビングでお昼寝中だ。俺と君は縁側に座って、君が食べたいと言った棒付きアイスを食べている。

「家に残るのは、私1人だけだ」

アイスを食べ終わった君は、棒を見て「あー、ハズレた」と肩を落とした。俺も食べ終わった棒を確認する。案の定アタリなんかではなくて、「俺もハズレだった」と返した。

「できるだけ早く帰ってきてよね。今私のことが見えるの、湊くんしかいないんだから」

君は俺の腕を軽く小突く。俺は「了解です」と答えた。今日の昼間は、まだそんなことを話していたはずなのに。夜が近づくにつれて、段々と君が見えなくなっていった。


今日の朝は薄くなっていたのは手だけだったのに、今は全身が薄くなっていて、服で隠れていないところは向こう側がハッキリと見えている。

「湊くん、私今日中に見えなくなるんじゃないかな。多分だけど」

そう言った君の顔は、意外に落ち着いていた。

「いやいやいや、何言ってんの?そんなわけないって。ちゃんと明日も、これからも見えるって!」

灯はまだ帰ってきていない。聖も目を覚まさないままだ。

「でも湊くんも気付いてるでしょ?私、朝よりも体が透けてるんだよ⁉︎向こう側がハッキリ見えてるでしょ?」

君の言う通りだ。俺は何も言えなくて下を向く。

「私、消えるの!見えなくなっちゃうんだよ!」

「やめろよ、そういうこと言うの!俺はたとえ見えなくなったとしても、頼ちゃんに最後まで笑っていてほしいのに。ネガティブなことばっか言わないでくれよ!!」

「ネガティブにもなるよ!だって、だって…!」

感情的になりすぎて君に怒るような形になってしまった。君は唇を噛んで声を押し殺して泣いている。笑っていてほしいのに。また俺が泣かせた。

「…ごめん、頼ちゃん。言い過ぎた」

その間にも、君はどんどん薄くなっていった。

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