変化

第9話

 朝起きると、聖は辺りを見渡してから急に泣き出した。

「聖、どうしたんだ?」

俺は聖を抱き上げて泣き止ませようと試みるが、一向に泣き止む気配はない。

「ママがいないのー!!」

そう言って手足をバタつかせながらずっと泣き続けている。また寝ぼけているのか。聖が寝ぼけておかしなことを言うのは、珍しいことじゃない。

「ママならここにいるだろ」

君は俺のすぐ隣にいて、今も聖のことを心配そうに見つめていた。

「いないっ!!」

何を言ってもいないと言い張る聖に、違和感を覚えた。

 いつもみたいに寝ぼけているわけじゃない…?

「…聖、もしかしてママのことが見えないのか?」

そんなことを考えたくはなかったが、この様子だとそれ以外考えられない。

「うー…、いない。みえないぃ」

一瞬驚いたように泣き止んだが、また大泣きしだした。

「私今、聖の目には見えてないってことなの?」

すがるように俺のパジャマの袖を掴む。俺は仕方なく頷いた。

「そんな……、嘘。…聖っ!!」

君も目に涙をたくさん溜めながら聖の頬に手を伸ばす。でもその手は今までとは違い、聖の顔をすり抜けた。

「…っ!?」

今までは触れているという感触はなくても、確かに触ることはできていた。

「どうしたんだよ、頼ちゃん…。なんだかちょっと、薄くなってる」

昨日まではこんなふうじゃなかったのに。少し向こう側が透けて見えた。君は自分の手を見て言葉を失う。

「なんで…なんでなのっ?」

君の両目から、大粒の涙が次々に溢れては布団を濡らしていく。

「そうだ、灯!灯は私のこと見えるかな!?」

泣き続ける聖を抱いたまま、珍しくまだ起きていない灯の元まで急ぐ。

「灯っ!!起きて、早く!」

灯はいつもと違う俺たちの雰囲気に気が付いたのか、すぐに目を覚ました。

「なに?どうかし―…」

「灯は、お母さんのこと見えるよねぇっ!?」

君は噛み付くくらいの勢いで灯に聞く。

「え、うん。見えるけど。てか、なんで聖は泣いてんの?」

灯はわけがわからないというように、眉を八の字にする。君はそれを聞いて、泣きながらその場に座り込んだ。

「お父さん、何があったの。ちゃんと説明してよ」

灯は君の背中をさすりながら俺に聞く。

「実は、聖が『ママ見えない』って言うんだ」

「えっ!?」

聖はさっきよりも少し落ち着いたようだけど、まだしゃくり上げながら泣いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る