第8話

 君がこの世に戻ってきてから1番驚いたのは、俺の料理の腕がすごく上達していたことらしい。

「やっぱりさ、湊くん料理上手くなったって!」

今では得意料理と呼べる物もいくつかある。

「付き合い始めた頃なんか、トースターで食パンさえ焼けなくて!よく真っ黒にしてたよねー」

おかしそうに笑う君を見て、俺も当時のことを思い出す。明日模試がある灯のために、今日の晩ご飯は灯の大好物の煮込みハンバーグを作った。

「そうなの!?……うーん。まあ、お母さんが死んじゃってすぐのご飯を見たら想像はできるかも」

クスクス笑いながら、灯はハンバーグを頬張る。

「えー、でも、パパのつくるごはんおいしーよ?」

「聖ー!!お前はいい子だなぁ…!ただ、あともう少し綺麗に食べてくれたらいいんだけど」

口の周りにデミグラスソースがベッタリとついていて、テーブルにはぐちゃぐちゃになったハンバーグが落ちている。

「ちゃんとたべてるもっ!!」

綺麗に食べているつもりなのに指摘された聖は、拗ねてプイッと顔を背ける。

「はいはい、聖は食べてるつもりだもんね」

すかさず君は聖の口周りをティッシュで拭って頭を撫でる。

「パパはね、なんでも美味しいって言っといたら大体喜ぶから」

それを聞いた聖は「そーなの?」と目を輝かせている。

「パパ、おいしーよ!」

素直な聖は、言われた通り美味しいと言う。

「ありがとね」

「嬉しいでしょ?」

頬杖をつき煽るように俺の顔を覗き込んだ。その顔はすごく楽しそうに見える。

「まあ、嬉しいには嬉しいけど…」

「ほらー、私の言った通り!」

君は勝ち誇ったように笑みを浮かべる。いつまで経っても君には勝てないってことか。料理が上手くなっても、そこは永遠に変わらないようだ。


あれから、灯の夏期講習や模試の合間を縫ってなんとか思い出す方法を見つけようとした。でも、どこに行っても何を見てもダメだった。

そんな絶望しかけていた時、聖は突然君のことが見えなくなった。

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