第7話

 まずは去年4人で行った海を見に行った。

「この海、灯が描いた絵の…」

「お、よくわかったね」

聖が波打ち際に作っていた砂の城が、波に流されて泣きそうになっている。それを見た灯は、すぐに少し離れたところに連れていき新しく砂の城を作り出した。

「だって…すごく綺麗に描けてたから」

君の着ているワンピースの裾が、海風に吹かれて揺れる。濃い潮の匂いが鼻を掠めた。

「ママ〜、みて!きれいなかいがらあった!」

嬉しそうに笑いながら聖が駆けてくる。手には綺麗な色の大きな貝殻を持っていた。

「わ、綺麗だね。でも聖、ここはお外だからママのこと呼んじゃダメ。わかった?」

君のことは俺たち3人には見えるけど、他の人には見えていないらしい。だから、外では怪しまれないために話しかけないという約束ができた。寂しい約束だが、君が望んだことだ。そんなの守らないわけにはいかない。

「わかった!はい、これあげる!」

聖は無邪気に笑って貝殻を差し出す。

 これ、絶対わかってないぞ。

 俺はその光景を見て微笑ましく思った。


聖が眠いと言ったから、集めた綺麗な貝殻を持って家に帰ってきた。あれだけはしゃいだから疲れたんだろう。家に帰る途中の車の中で寝てしまっていた。

「やっぱり、何も思い出さなかった?」

「うん…。聖の時みたいに、なんだか懐かしい感じがしたような気はするんだけど、すぐには無理だった」

アイスティーが入ったグラスをジッと見つめながら君は言う。氷が揺れて“カランッ”と涼しさを感じさせるような音をたてた。

「ねえ、湊くん。灯って…高校は芸術系のところに行くの?」

唐突に君は話を変えた。

「ああ、うん。隣の県の高校を受験するんだって。寮があるから、受かったらそこで生活するって言ってたなぁ。なんか、通学に電車とバスを乗り継いで3時間くらいかかるらしくて」

「3時間はキツいね」

君は通学にかかる時間を聞いて、とても遠い目をしている。

「まあ、ここはド田舎だから」

空気が綺麗で自然も多いのはいいところなんだけど。あと海も近いし。でも、田舎なだけに不便なところは多いんだよな。

「でも、そっか。寮に入っちゃうんだ。寂しくなるね」

君の目線の先には、1番好きだと言った灯の絵があった。

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