第4話
君が消えた後、俺はしばらくその場に立っていた。夢かと思って頬を引っ張ってみたが、痛くてすぐに手を離した。
「―ていうか、頼ちゃんがこの世にきた理由ってなんだ?てかなんでこの世にいるんだ?…あっ、それが理由か」
1人だけのリビングでは、「何言ってんだ…」とつぶやいた声がやけに大きく聞こえる。さっきまでそこにいたこの世に戻ってきたという君。一瞬だけ、昔に戻ったのかと思った。
「寝るか」
寝室に行き、寄り添って寝ている灯と聖を見る。聖は布団を蹴飛ばしていて、お腹も見えていた。
「2人も…ママに会いたいよな」
時間が限られていたのか、2人に会えない理由があるのかはわからないが、頼ちゃんは灯と聖の名を一言も口にしなかった。
次の日、右手に違和感を感じて目が覚めた。いつものように寝相が悪い聖が乗っているのかと思ったら、聖は隣でまだ寝ていた。
「灯…なわけないか。今日から夏期講習でいつもより早く出て行ったし」
そうなると、思いつくのは1人しかいない。ゆっくりと顔を右に向ける。
「あ、やっと起きた。おはよう、湊くん」
ベッドの端に腰掛けて右手を握っている君。まあ、感触はないんだけど。
「お、おはようございます」
「ははっ、なんで敬語?いいけどさ、随分とお寝坊さんなようで。その子、保育園とか連れていかないと行けないんじゃない?仕事、行くんでしょ?」
段々と目が覚めてきて、耳を疑った。君が聖のことを“その子”と呼んだからだ。俺が知っている君は、家族のことを本当に愛していて、決して自分の子供のことをその子なんて呼び方はしない。
「頼ちゃん。今、聖のことなんて言った?」
なんとなく聞いてはいけないような気がしたが、聞いて確かめないと気がすまなかった。
「―ねえ、ひじり、って……誰?」
その瞬間、強く頭を打たれたような酷い衝撃に襲われた。
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