第2話

 君がいなくなってから、1年ほどが経った。

「お父さん!起きて!!私もう学校行く時間だから、聖ちゃんと保育園送ってってね!」

受験生の灯は、毎朝早く学校に行って勉強をしている。

「えっ、もうそんな時間!?あ、えっと、いってらっしゃい!気を付けろよー」

灯は元気に手を振って「いってきまーす!」と言いながら走って行った。急いでいるはずなのに、俺と聖の分の朝ご飯まで丁寧に作ってある。申し訳ないような、嬉しいような微妙な気持ちだ。

「パパ〜?おはよぅ」

聖を起こしに行こうとした時、タイミングよく階段から声が聞こえてきた。まだ少し寝ぼけているのか、眠たそうに右目を擦っている。左手にはお気に入りの熊のぬいぐるみを持っていた。

「おはよう、リリー置いて顔洗ってきなさい」

ぬいぐるみの名前は、買った時に聖が“リリー”と名付けた。


「聖!急がないとパパ仕事遅れちゃう」

「や〜、まって。リリーにいってきますいう!」

「じゃあ早くして!」

4歳になって、舌っ足らずだったのが少しちゃんと喋れるようになってきた。

小さな田舎の小さな集落。それが俺たち家族の住んでいる所だ。


 「おはようございます!峰原みねはらさん。聖くん、おはよう!」

保育園に着くと、先生が笑顔で挨拶をしてくれた。幼児の人数が少ないから、先生は全学年全員の名前を覚えているらしい。

「今日もよろしくお願いします」

「はい!お仕事頑張ってくださいね。ほら聖くん、お父さんにいってらっしゃ言って」

「いってらっしゃ〜い!!」

短い腕を目一杯振っている姿がすごく愛らしい。

「いってきます」

軽く手を振り返してから保育園を後にした。

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