プロローグ

第1話

 あの夏、確かに4人で笑っていた。


 静まり返った病院の廊下の長椅子に、俺と娘のあかりと息子のひじりの3人で座っている。

「パパぁ、ママは?なんでママはこないの?」

まだ3歳で理解ができない聖は、さっきからずっと涙目で母親を探している。

「パパ?ないてうねぇ、いたいの?」

まだ舌っ足らずだが心配して頭を撫でてくれた。自分も泣きそうになっているのに。この優しさはきっと、君に似たんだろうな。

「だいじょぶよー」

その小さな温かい手が頭の上を行ったりきたりする度、余計に涙が溢れてくる。

「灯も聖も、これからは3人だから。…灯にはいろいろ手伝ってもらうと思うけど、ママは悪くないから。それだけはわかってほしい」

「うん、わかってるよ…」

中2の灯は聖の手を繋いで涙を堪えながら頷く。

 仕方のないことだったんだ。

君は持病で元々命は長くないと言っていた。それをわかっていて、俺が君を支えると言って結婚した。子供2人にも恵まれて、幸せだった。

でも、今まで“また”という言葉を決して口にしなかった君が、たった一言「またね、」と言って目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る