第29話

 「私が死んでも、前を向いて生きてね。笑うことを恐れないで。自分自身がダメだと思っても、明日は必ずくるから。時間が待ってくれることは、絶対にありえないから」

自分で言っていて、泣きそうになってくる。もしかしたら、これが最後の会話になるかもしれない。それくらい、私はいつ死ぬか、もうわからない状態にあった。

「下を向いている暇なんてないよ。―だから、明日を、これからを、前を向いて歩み続けてほしい」

「あゆ―…」

お母さんが私の名前を呼びかけた時、お父さんが首を横に振って止めた。

「続けていいぞ」

私は頷く。お母さんの目には、今にも溢れそうなほどの涙が溜まっていた。

「決して歩みを止めないで。…私の願いは、それだけ」

私は溢れ出した涙を手の甲で拭う。お母さんは静かに泣きながらしゃがみこんだ。お父さんはその肩に腕を回す。2人とも肩が小さく震えていた。

「―あとは…元気で私の分まで生きてくれたら文句なし、かな」

お母さんは涙声のまま「うん」と言った。

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