第28話
病室に戻ると、いつも白くて殺風景な病室は明るいオレンジ色になっていた。佑紀君に手伝ってもらって、ベッドに座る。そのベッドは、数十分誰も座っていないだけで冷たくなっていた。
「歩、今少しいいかしら」
“コンコンコン”というノックの後に、お母さんとお父さんが病室に入ってきた。
「佑紀君、ちょっとだけ3人で話したいことがあるんだ。席を外してもらえるかい?」
「あ、すみません気付かなくて。すぐに出ます!」
佑紀君は申し訳なさそうに急いで病室から出ていく。
「悪いね」
それから少し時間が経っても、お父さんは何も言おうとしない。気まずすぎて、気持ち悪くなりそうだ。
「―歩。俺達に何か言いたいことがあるそうだな」
「今日言ってたでしょ?あの後病院の入り口でお父さんと会って、話したの」
あの時は顔も見ずに拒否されてしまった。「話した」ということは、聞いてもらえるということだと私は解釈した。
「何でも言ってみろ」
お父さんはいつもの頼もしい顔でニッと笑った。
「でも…」
私はお母さんの方を見た。あんなにはっきり「聞きたくない」と言われたのだから、心の底ではまだ聞きたくないと思っているかもしれない。そんなお母さんに我慢させてまで聞いてもらうのもなにか違う気がした。
「…私も、今は聞きたいと思ってるのよ」
お母さんは私の頭を撫でた。昔から変わらない、温かくて優しい手だった。
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