第27話
外は少し肌寒く、お見舞いにきた人やリハビリ中の人、私と同じように車椅子に乗っている人達がいた。
「ねえ、それで?いくらでも聞くから」
佑紀君は車椅子を押しながらタイルの上を歩く。
「――私は、もうすぐ死ぬと思う」
淡々と告げると、佑紀君は驚いたのか車椅子が止まった。
「そしたら、新しい奥さんを見つけてね。その人と、今度こそ普通の幸せを掴んでほしいの。私とじゃできなかったこと、たくさんしてね」
上を向くと、泣きそうな佑紀君の顔が見えた。私はその頬に手を添える。
「私のことは、過去のことにして。お願いね…」
私の頬に涙が伝うのと、佑紀君の頬に涙が伝うのはほぼ同時だった。
「それは…遺言って言うんじゃないの?」
「私が違うって言ったら違うの。だから、これは遺言じゃない。“お願い”だよ」
いつもの癖で強がって笑ったけど、佑紀君にはそんなのは通用しない。
「無理して笑わなくていいよ」
「…っ」
風が涙の一部をさらった。
「―もう、無理して笑わなくていいから」
「無理なんかしてないよ。大丈夫、大丈夫!」
私は佑紀君の頬から手を離し、下を向いた。
「大丈夫なんて言わなくていいから。大きな声で泣き叫んでもいいんだよ?泣いてる時も、いつも我慢してるように見える」
なんで、なんでこの人はいつも私が欲しいと思う言葉を、絶妙なタイミングで言ってくれるんだろう。
喉元に熱いものが込み上げてくる。
「ほら…僕はここにいるから」
私はその時、乳がんだとわかってから初めて大きな声で泣き叫んだ。人目を気にせず、ただ佑紀君に抱き締められながら泣き続けた。
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