第25話
午後の講義が始まる前に、智菜と帆貴がお見舞いにきた。2人がきてくれると嬉しい。でも、同時に何で2人は健康なのに私だけ…と思ってしまう嫌な自分がいた。
「あゆ、今日はフォトブックを持ってきたよ!入学してからのうちらのやつ!」
智菜は高校生の時にマネージャーと掛け持ちで写真部に入っていたらしく、大学では写真サークルでいろんな写真を撮っている。おまけに智菜が撮る写真は、目が離せなくなるほど美しく見える。
「フォトブック?」
渡されたフォトブックは結構な厚みがあった。表紙には、智菜の丸っこい字で『いつメン!』と書かれている。ほぼ毎日撮っていた私達4人の写真は、私へのサプライズとなった。
「ずっと、その写真達どうしようかなーって思ってたのね。で、閃いたの!フォトブック作っちゃえばいいじゃ〜んって!」
智菜は嬉しそうに笑う。帆貴もそんな智菜を今日は優しく見守っていた。
「ありがとね、智菜」
「どーいたしまして!」
この体が結婚式まで生きることができたら、もっと他にもいっぱいフォトブックが作れるんだろうけど。それは叶わない夢ってやつだ。
私は私の体の限界を少し前から悟っていた。
「じゃあね!うちらもう行くけど、ゆう君とケンカしちゃダメだよ〜?バイバーイ!」
「またくるからな!」
2人は今日も元気に病室を出ていく。さっきまで賑やかだった病室の中が、一気に静かになった。
「羨ましいなぁ」
「え?」
ふと私が口に出した一言に、佑紀君は反応した。
「元気な2人が羨ましい。私だって、がんにさえならなかったらあんなふうに楽しそうにしていられたのかなぁ」
考えたくなくても考えてしまう。思いたくなくても思ってしまう。それほどに、がんは私の心を侵食していっていた。
「歩ちゃん、じゃあ俺もくるのやめた方がいい?」
私は必死に首を横に振る。
「今の発言だと、そういうことになっちゃうよ。歩ちゃんは、がんだからこそ体験できることも、感じられることもあるんだよ。俺達にはそれがわからない。人の痛みに寄り添える人になれてると思わない?」
佑紀君の言葉には、いつもよくわからない説得力があった。
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