第23話

 この旅行は1泊2日だ。だから朝ご飯を食べたらこの旅館を出ることになる。私は昨日よりもさらに味を噛み締めながら朝ご飯を食べた。

「佑紀君は思ってたよりも体力があるな!今日の早朝ランニングも俺についてこれるとは。びっくりしたよっ!」

お父さんの日課でもある、早朝ランニング。私はお父さんがそれをサボったことを見たことがない。気付いたら、いつも走りに行っているイメージだった。

「まさかお父さん、佑紀君連れてったの!?」

私は驚いてフォークを取り落とす。

「当たり前だろ!そのために、Tシャツとハーフパンツ、運動靴を持ってくるように言っておいたんだから。歩を守ってもらうためにも、大事だろ?ー」

そんなドヤ顔で言われても…。

 お母さんはいつものことだから、もう完全に無視している。

「でも、朝から走るのは気持ちよかったよ。その後のお風呂も最高だったし」

佑紀君が言うと、お父さんは「そうだろ!」と言って大声で笑った。その声は広いこの個室に響き渡った。


旅館を出て、私達はそれぞれの車である工房に向かった。

「ブレスレットが作れる工房なんてあったんだね」

佑紀君はパンフレットを見ながら私の手を取る。これも、お母さんが計画したものだった。

「だって、きたからにはやっていきたいじゃない!ここのブレスレットは、自分で好みのやつを自由に作れるのよ」

そういえば、お母さんそういうの好きだったな。

 私達4人は工房に足を踏み入れた。


「できたー!」

「僕もできました」

先に出来上がったお母さんと佑紀君は、お互いのブレスレットを見せ合ってはしゃいでいる。向かいに座るお父さんは、集中した様子で黙々と糸にビーズを入れていた。

「私もできた!見て、佑紀君」

私は立ち上がり、佑紀君のもとに小走りで行く。

「可愛いね、歩ちゃんにすごく似合ってる」

そう言って、佑紀君は微笑んだ。

「はい、これ。歩ちゃんにあげるよ」

佑紀君は自分が作ったブレスレットを、私の手首につけた。ビーズ同士がぶつかり合って“シャラン”と音を立てる。

「え、いいの?ありがとう!」

そのブレスレットと私が作ったブレスレットは、ベースの色が反対色だった。だからこそ、一緒につけるととても綺麗に見えた。

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