第14話
病院に行くまでの車の中で、私達は一言も言葉を発しなかった。私はショックで、もはや喋る気力さえも残っていなかった。
「着いたよ。降りられる?」
私は頷き、ドアを開けて車から降りる。急に、はっきりと先生の口から『再発』という言葉を聞くのが怖くなってきた。そんな私の手を、佑紀君は包み込むようにそっと、強く握った。
「行こうか」
検査の結果は、やっぱり左胸に乳がんの再発があった。見せられたレントゲンには、白く大きな影が複数あるのがわかる。
「残念ですが、再発でしょう。今回はしこりが複数あるので、切除ということになるかと…」
先生は言いにくそうにしながらも、私から目をそらさなかった。私は立ち上がった。それだけは、再発したとしても絶対にしたくなかったことだ。
「あの、それ以外に方法はないんですか!?」
先生は黙り込んだ。佑紀君も何も言わない。
「……わかりました。手術を受けます」
このたった一言を言うのが、とても辛かった。
「あのドレス、着れなくなっちゃうね」
ウェディングドレスもカラードレスも、胸のところが開いているデザインだ。胸がなくなったら、そんなデザインのドレス、着れるわけがない。
「俺はたとえ胸がなくても、歩ちゃんが歩ちゃんとしていてくれれば、それでいいと思ってる。見た目が変わったからって、愛想なんか尽かさないよ」
涙が溢れてきて止まらない。自分が今、どんな感情で涙を流しているのかもわかっていなかった。
「本当に?本当に…胸がなくなった私を見ても、変わらずにそう言える?」
しゃくりあげながら、私は佑紀君に聞いた。
「言えるよ」
すると佑紀君は真顔で真剣に答えた。
その日の夜の空は真っ暗で、数えられるほどの星しか見えなかった。
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