第12話

 その日の夜9時過ぎ、おばあちゃんは私達に見守られながら静かに息を引き取った。眠るように優しい、穏やかな顔だった。


「はい、コーヒー。…お姉ちゃん、結婚したんだってね。おめでとう。こんな時に言うのもどうかと思うんだけど」

渚は少し顔を赤らめながら、コーヒーの缶を渡してきた。私はその缶をそっと受け取る。渚は私の隣に座った。

「うん、ありがとう」

2年ぶりの妹になんとなく緊張していると、佑紀君が歩いてきた。

「はじめまして、渚ちゃん…だよね?」

佑紀君と渚が会うのは今日が初めてだ。

「お姉ちゃん、本当にこの人と結婚したの?」

渚は怪訝そうな顔で私を見つめる。昔から渚は人見知りと、人の好き嫌いが激しい。今回も多分そのパターンだろう。

「うん、そうだけど。渚また人見知りしてんの?」

「いや…、あたしこの人ちょっと嫌いかも。ごめんね、お姉ちゃん。えっと…佑紀さん?も」

即答。

 悪気はないんだろうけど、はっきりと物事を言っちゃうからなぁ。

「ごめんね、佑紀君。渚も悪気があるわけじゃないの」

私はコーヒーを置いて佑紀君に謝る。

「全然、気にしてないから」

と言いつつも、佑紀君は悲しそうにうなだれた。

 無理しなくていいのに…。

「渚、はっきり言うのちょっと控えなさいって言ったでしょ?アメリカではどう?ちゃんと仲良くやれてるの?ご飯は食べてる?」

私が渚に向き直っていろいろ聞くと、渚はわなわなと震え出した。

「お姉ちゃん、お母さんみたい!奥さん通り過ぎてもうそれお母さんだよぉ!」

怒っているかと思いきや、お腹を抱えて笑い始めた。こういう表情がコロコロ変わるところは、まだまだ子供っぽいんだけど。

「で?友達はできた?」

「…まあ、できた。皆ね、面白くてノリもいいし、すっごく充実してるんだ〜♪」

私はずっと立っている佑紀君に気付き、私の隣に座るよう促した。渚の目はキラキラしていて、本当に楽しいということが伝わってくる。

「―お姉ちゃん、あたしこのまま海外で暮らしてもいいかな。あたしね…通訳になりたいの」

病院の廊下は少し冷えた空気が流れていた。

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