第11話

 カラードレスとなると、ウェディングドレスよりも色やデザインがもっと増えるわけで。目移りしかしない。

「肌の色が白いからねぇ、歩ちゃん。大抵の色は普通に似合っちゃうんだよね」

「そうじゃなくて!なんか…あれ、ないの?好み、みたいな」

1人ではとても決められないから答えを求めたのに、あまり参考にはならない答えが返ってきた。

 私は部屋全体をグルっと見回す。同じ色でも、明るさや生地の種類で雰囲気が全然違って見えた。

 それに、どれも重そう…。

 その時、ふと少し先にあるワインレッドのドレスが目に入った。

「これ…可愛いなぁ」

生地の触り心地はとっても気持ちいい。背中の編み上げがアクセントになっていて、それもまた映えていた。

「あ、それ似合うんじゃない?色も派手すぎないしいいじゃん」

後ろから佑紀君が覗き込んでくる。私は驚きつつも振り返った。

「でしょ〜!似合うかな?ウエストのリボンもオシャレじゃない!?」

ずっと、ずっとこうして笑っていたいと思った。


それから1週間後。お母さんから連絡を受けた私と佑紀君は、おばあちゃんの病室に向かった。おばあちゃんが余命宣告されてから少し経った頃に、何度かお見舞いに行ったから場所はわかっている。

 でも、今日はお見舞いではなかった。

「おばあちゃん…っ!!」

病室の中には、アメリカに留学していたはずの妹、なぎさの姿もあった。お母さんは肩を震わせながら、おばあちゃんの手を両手で強く握っている。私達に気付いたお父さんが、場所を代わってくれた。

 電話で聞いた話によると、おばあちゃんは今夜が山場になってくるらしい。

「おばあちゃんっ、私だよ!歩だよ!来月にね、運よく結婚式の前撮りができることになったの!丁度空きがあったんだって‼︎」

私が一生懸命話しかけても、おばあちゃんの顔はピクリとも動かない。

「…おばあちゃん…!ドレスまだ見せてないじゃん。結婚式、まだ挙げてないよ?赤ちゃんだって抱っこさせられてない!お願いだから、目を開けてよ…っ」

病室には、私の声だけが惨めに響き渡った。渚はさっきから顔を覆って窓の方を向いているから顔は見えない。

 でも、今にも泣きそうなことだけはわかった。

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