第8話
抗がん剤治療を初めて少しすると、レントゲンに変化が見えてきた。
「ここの部分、見えますか?以前撮ったレントゲンよりも、がんの影が小さくなっています」
「本当ですか!?」
付き添いできていたお母さんが、ここが病院だということも忘れていそうなくらい、大きな声で言った。私が見てもわかるほどに、胸のところの影は小さくなっている。暗闇の中に1つの希望が見えた気がした。
「このまま順調にいけば、近いうちに退院できます。そうしたら、通院という形での治療に切り替えられますね」
先生は優しく微笑んだ。
「あと少しです。一緒に頑張りましょうね!」
お母さんは私の手を握って頷く。その手は、かすかに汗ばんでいた。
病室に戻って、佑紀君にレントゲンの結果を伝える。ベッド脇に置いてある結婚式のカタログには、付箋がだいぶ増えていた。
「本当?もうすぐ退院できるの?」
「まだ決まったわけじゃないけど、できるかもしれないって。まさか、こんなに早く結果が出てくるなんて思ってなかったよ」
予約しているままいけば、来年には結婚式を挙げることができる。式場は決まっているけど、まだドレスやタキシード、式場に飾る花と招待状も出さなければいけない。音楽だってまだ何も決めていないし、余興に料理に二次会だって。
やることはたくさんあるわけだ。絶対に治さなくちゃ。
「歩ちゃん、僕がついてるから。あと少し、頑張ろうね」
私が無理して明るく振る舞っていると思ったのだろうか。佑紀君は優しく笑ったまま、私を抱き締めた。その手は私の背中を余裕で支えられるほど大きくて、骨ばっている。
「うん。ありがとう、佑紀君」
私も佑紀君の背中に腕を回す。窓の外に、電線にとまっている数羽の鳥が見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます