第7話

 それから、抗がん剤治療が始まった。丁度大学も夏休みに入ったから、結婚式の準備もしながら。もうそれからは副作用との戦い。体中の毛が抜けたり、吐き気も頻繁にするし、酷いとそのまま吐くこともあった。でも、いつも隣に佑紀君がいてくれて、背中を優しくゆっくり擦ってくれた。上から下へ、下から上へ。手の動きと一緒に、段々吐き気も収まっていく気がした。

「辛い?」

時々心配そうに尋ねる佑紀君の顔は、私よりも疲れているように見える。少しやつれているようにも思えた。

「俺が変わってあげることはできないから…」

“シュン…”という効果音が付きそうなくらい、あからさまに悲しそうな顔をする。佑紀君はたまに2つ年上に見えない時がある。

 まあ、普段の大人びてるところとのギャップがまたいいんだけど。

「全然平気!全速力で走れそうだよ」

私は両腕を振ってからピースをする。急に髪がごっそり抜けるのにも、もう慣れた。初めこそ驚きはしたものの、慣れればどうってことないものだ。

「しこりも今んとこリンパ節に転移してるだけだし、レベル3は死亡率も低いって先生が言ってたじゃん!」

私はベッドから窓の外の夕日を見た。空が真っ赤になっていて、世界が全てオレンジ色に見える。白いベッドのシーツが、綺麗なオレンジ色に染まっていた。

「あ、でも切除手術だけはしたくないから、抗がん剤治療頑張るよっ!」

私はベッド脇に置いてあった結婚式のカタログを数冊、手に取る。その中の1冊を開くと、いろんな挙式会場の写真があった。チャペル、教会、神社、海辺、海外なんかにも憧れる。

「俺も、できることは何でもするからね」

「 何でも言って」と言い、佑紀君は横からカタログを覗き込んだ。

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