何で今なんだろう

第6話

 異変に気付いたのは、少し前だった。まだ、おばあちゃんが余命宣告されてすぐのこと。胸の辺りに“しこりのようなもの”があった。

「……?」

その時は特に痛くもなかったし、なんともないだろうとそのままにしていた。結婚式の準備もあったし、そんなことを気にしている余裕は、正直なかった。でも、それから数ヶ月ほど経った頃。あの“しこりのようなもの”が、大きくなっていることに気付いた。

「もしかして…」

『乳がん』という言葉が頭をよぎる。考えたくはなかったが、それ以外に考えようがない。私は佑紀君に話して、すぐに病院に連れて行ってもらった。


 「おそらく乳がんでしょう。既に脇のリンパ節に転移があり、ステージ3までいっています」

生存率はそこまで低くないこと、抗がん剤治療をすすめることが話された。何で、何で今なんだろう。結婚式の準備もしていて、おばあちゃんのことでも大変なのに。

「ねえ、佑紀君。何で今なの?ねえ、何で私なの?どうしよう…!」

病院を出てすぐ、私は涙をこらえながら佑紀君に訴えかけた。佑紀君の顔が見れなかった。がんになってしまった私とこのまま結婚しようとするなんて、ありえないと思ったから。婚姻届を出して数日で離婚届を出しに行かなきゃならないのか。私はヤケになって、無理やり広角を上げた。

「どうしよっか」

「――結婚式の準備をゆっくり進めつつ。抗がん剤治療の方も頑張るって感じでどうかな?」

佑紀君は「別れてほしい」とは言わなかった。

「本当に…それでいいの?」

食い気味に、佑紀君のシャツを掴んで言う。別れたいわけではない。でも、佑紀君にはなるべく苦労や負担をかけたくなかった。

「俺が別れたいって言うと思ったの?」

その瞬間、さっきまで必死にこらえていた涙が溢れ出した。頬を熱いものが伝っていく。泣いていることを理解するのには、少し時間がかかった。

「なわけないじゃん。俺は、歩ちゃんのことをこれから一生守り続けるって決めたんだから。そんなことあるわけないよ」

佑紀君はクスッと笑って、私の涙を拭った。

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