第6話

 「うわー!今日も美味しそうだね!」

 穂南が、1つタッパーからマフィンを取って食べた。

 あっ、ずるい!私まだ食べてないのに。

 ジトッとした視線を送ると「ごめんごめん」とでも言うように、顔の前で手を合わせた。

「さあ、皆も食べて!ほら、聖夏も!」

 手招きをされて皆が充玖の元に群がっていく。笑顔で渡しているのを見ていると少しモヤッとした。

 いやいや!何チームメイト相手にヤキモチ妬いてんのっ!?

「はい!聖夏の分!」

 私が1人でワタワタしていると、充玖が笑顔でマフィンを渡してくれた。

「…ありがとう、うん!美味しいっ!やっぱり充玖はすごいね」

 一口食べて感想を言うと、充玖は「エヘヘッ」と言って笑った。

 ああ、可愛いなぁ。もう!

「はーい!練習再開するよーっ!充玖もありがとね」

「うん!頑張ってね!」

 充玖は手を振りながら体育館から出て行った。


 下校も2人で一緒に帰る。入学した時からずっと変わらずそうだ。部活がある日でも先に終わった方が校門の前で待つ。今日は私の方が先に終わったから今は充玖を待っているところだ。周りは皆男子は男子と。女子は女子とグループになって帰っているけど、私は仲の良い友達は皆家が反対方向だから、充玖以外の人と登下校をしたことがない。どんな感じなんだろう?

 …それより今日のマフィン美味しかったなぁ。作れるかは別として、今度作り方教えてもらおうかな。

 そんなことを考えていると、手を振りながら走ってくる充玖が見えた。

「ごめーん!教室に忘れ物したの思い出して、取りに行ってたら遅くなっちゃった。待った?」

 少し眉を下げて謝るその姿が可愛くて思わず抱きしめたくなる。でも、我慢。ここは学校だし、充玖と私は付き合ってもいないんだし。もし勘違いでもされたら充玖がかわいそうだから。

「ううん。待つのべつに退屈じゃないからいいの」

「本当?」

「本当。疑ってんの?」

「いや?じゃあ、帰ろっか」

「うん」

 私達はいつものように2人並んで家路についた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る