転換-コンバージョン-Ⅱ

司たちが秘密基地でヤツフサの話を聞いているたのとちょうど同じころ、自衛隊・市ヶ谷基地では奥澤が上層部に呼び出されていた。


「転属……ですか。私が」

「急な指令だ。正直こっちも混乱している。怪獣騒ぎが片付いていないというのに、突然の引き抜き。しかも配属先はこちらに圧力をかけて出撃できなくした極秘の組織。もう何と言っていいやら」

「極秘の組織というのは……」

「その件に関しては、僕がお話しましょう」


司令室に誰かが入って来た。見ると黒服に左右をガードされた高校生くらいの少年だった。


「始めまして、奥澤隊長。特務機関Hyper Pertnership。通称HPの者です」

「HP?それに君は……」

「名前は非公開なので明かせませんが、オフィサーとお呼びください。一応HPの指揮権は私にありますので」


特務機関の指揮権をこんな少年が?奥澤は内心驚いていた。


「初めまして。奥澤信一郎です。ところで私は何をすればいいのでしょう?」

「早速ですが、奥澤隊長にはHP本部に来ていただきます。そこでお話しましょう。失礼ですが、隊長をお連れしてもよろしいでしょうか?諸所の手続きはこちらで済ませてありますので」

「ああ、構わんが……」

「では」


そういうと、オフィサーと呼ばれた少年とガードの一人に奥澤は部屋の外へと連れ出された。残ったガードの一人が上層部たちの方に向き直り何かを突きつける。


「では、規則ですので」


次の瞬間、部屋に閃光が迸った。黒服が遅れて部屋を出た後、上層部の人間が気が付いた時には先ほどここで行われた転属の話も、怪獣の存在もすべて忘れてしまっていた。


奥澤は外で待っていた車に乗せられ、町外れにの方まで連れていかれた。

ずいぶん遠くまで連れていかれるのだな、と後部座席に座らされた奥澤が思っていると、助手席のオフィサーが話しかけてきた。


「そうだ、これ読んでおいてください」


オフィサーはカバンから一冊の冊子を取りだし、奥澤に差し出した。手に取って開いてみると、聞きなれない単語がたくさん並んでいる。

これから向かうというHPという組織、エレメント、並行宇宙をはじめとした謎の単語の数々。

やがて車はまだ怪獣災害の爪跡が残る池袋の方へと入っていった。たくさんの人々が路上にいる。怪我をして動けない者、帰りたくても帰れなくなってしまった者、行方が分からない人を探している者、その他大勢がいる。破壊された建物も…


「気の毒に……」


奥澤が憂いて言うと、オフィサーが口を開いた。


「気にする必要はありませんよ。見ていてください」


この惨状を気にするな?奥澤が眉をひそめようとしたとき、空から光の粒が降って来た。

雪のように舞い降りてくる光の粒は、破壊された建物を次々と修復していった。まるでビデオを巻き戻していくかのように、怪獣による破壊など最初からなかったかのように。


一体何が起こった?奥澤が唖然としている中、オフィサーは気にせず言った。


「これより、地下駐車場のシークレットゲートに入ります。ここの存在は他言無用で」


オフィサーの言葉通り、地下駐車場に入った車は行き止まりの場所へまっすぐに進んでいった。ぶつかると思ったとき、車は壁をすり抜けてどこか見知らぬ空間へと入っていった。


「どういう手品だこれは?!」

「認証を受けていない車両でなければここは通れません。文字通り、シークレットなわけです」


やがて車は停車し、停車台に乗ったまま上昇していった。完全にSFの世界観だな、と奥澤が思っていると上昇が止まり、車のドアが開かれた。


「降りてもらって大丈夫ですよ」

「ここは一体どこなんですか?」

「場所としてはJR池袋駅の中です。光学迷彩で偽装しているので誰も気づきません」

「池袋駅だって!?どうみても格納庫か何かにしか見えないが!?」

「その通り、ここは格納庫です。もうすぐ帰投すると思いますが……」


オフィサーの言葉通り、3機の戦闘機が中に入って来た。見たところF-15に似ているが、機体の後部に見慣れない装備がついている。昔見た戦闘機が出てくるロボットアニメにこんなのがあった気がする。

戦闘機のコックピットが開き、中から4人の人間が出てきた。4人は敬礼していった。


「リバース粒子の散布、終了しました。市民の記憶操作も完了している模様です」

「お疲れさまでした。新メンバーを紹介します」


オフィサーは奥澤を彼らに紹介した。


「紹介します。奥澤信一郎、本日よりHPの隊長を務めていただきます」

「隊長……私が?!」

「ようこそ、HPへ」


状況がよく呑み込めないまま、奥澤はただ立ち尽くすしかなかった。

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