世界獣-エレメント-Ⅲ
合体が完了したトライアムネクサスはゆっくりと顔を上げ、アースワーム・エレメントを見据えた。
「ほ、合体しちゃった……」
「す、すっげえ、本物のロボットだ」
それぞれのコックピットにいる7人は前方にあるレバーを触れようとするが。
「触るな!まともな操縦方法も分からないのに勝手に動かされたら困る!」
ヤツフサに一括されてしまった。
「じゃあどうすんねんよ!」
「今は私と司が何とかする。君たちの安全は保障するから、どうか心を一つにしてくれ」
「心を……」
「一つに?」
「そうだ。トライアムネクサスは乗っている人間の心が一つになっていないと動かない。みんな、奴を倒す事だけを考え、勝利を心に思ってくれ」
「勝利を……」
「思う……」
全員が意識を集中する。それに合わせて目を青く発光させたトライアムネクサスは、アースワーム・エレメントに組み付いた。アースワーム・エレメントも両手の触手を組みつかせた。
巨大な二つのパワーが拮抗しあい、強い衝撃が生まれる。双方一歩も譲らない状況だ。
「うぅ……」
「恐れるな!ありったけの勇気を振り絞れ!」
「そんな強引な……」
誠十郎が愚痴をこぼす。一方、コックピットにいる司は7人の精神状態を一挙に受けている為に表情に疲れが見え始めていた。
「大丈夫か?」
ヤツフサが声をかける。
「何とか……生きてはいる」
「7人分の精神を一斉に引き受けるのは厳しいだろうが、私も一緒受け止めているから安心しろ」
「今日会ったばかりの犬型ロボットに言われてもねぇ……」
司は皮肉を言いつつも渾身の力を込めてアースワーム・エレメントを突き放すと、その腹にパンチを食らわせた。ひるんだ鳴き声を上げるアースワーム・エレメントの背後に回り、背中にチョップを食らわせた。
そのままパンチの連撃を食らわせ、首を両腕で抱え上げて思いっきり投げ飛ばす。立ち上がったところに渾身のアッパーパンチをお見舞いした。アースワーム・エレメントは牙が砕け、パンチの威力で吹っ飛んだ。
「す、すげぇ……」
「いけるぞコレ!」
諒太と敦のコンビはただただ圧倒されていた。ほかの皆も言葉には出していないが、同じ考えのようだった。
倒れているアースワーム・エレメントは両腕の触手をトライアムネクサスの顔に絡みつかせた、そして今まで以上の力を込めてきた。首をもぎ取ろうとしている。
「くぅぅぅっ……」
「安心しろ、この程度でトライアムネクサスは破壊されん!」
ヤツフサの声で司は顔の触手を取り外そうとした。だがその時。
目の前で爆発が起こり、触手が爆破された。
「お、おい。誰か何かやったか?」
「誰もやっていないようだが……いずれにせよチャンスだ!」
トライアムネクサスは体勢を立て直すと
「宝剣・村雨!」
と叫び、目の前に巨大な日本刀型の剣を召喚した。それを勢いよく引き抜くと空高くジャンプし、アースワーム・エレメントに向かって思いっきり急降下した。
「村雨・八徳斬りぃぃぃぃ!!!」
「いや普通に技名叫んでるけど、どうすりゃいいんだ!?」
「ヤツの首を切り落とせ!後の事は私とマザーが行う!」
「首だな!了解!」
司は角度を調整し、村雨の刃をアースワーム・エレメントに切り付けた。アースワーム・エレメントの首はたまらず切り落とされ、道路に転げ落ちる。
「このままセカイの欠片の摘出を……」
トライアムネクサスはアースワーム・エレメントの首があった場所に思いっきり両手を突き立てて「何か」を引きずり出した。それを摘出されたアースワーム・エレメントの体は糸の切れた人形の様に崩れ落ち、そのまま粒子となって消滅した。
「マザー、これを」
掌に乗った、ガラスに似た小さな欠片を額の近くへと持っていった。すると、額から一筋の光が伸びてきて欠片はその中へと吸い込まれていった。
「やった……のか?」
「そうだよ……俺たちが勝ったんだよ!」
「ウチらやばくね?怪獣やっつけちゃった!」
各コックピットから喜びの声が聞こえる中、司はシートの背もたれにへたり込んだ。
「疲れたか?」
「まあね」
「今は休んでおけ。世界獣はまたやって来るだろう。それまで体力を温存しておくのだ」
「また戦うのか……一体あれは何だったんだ?」
「それはまたの機会にしておこう。よく戦ってくれた、どうもありがとう。今降ろすとしよう」
そんな会話が司とヤツフサはしていた。
「エレメントの消滅を確認しました。リバース粒子散布後、直ちに帰投します」
司たちの全く知らない所で、姿の見えない戦闘機の存在があった。戦闘中にアースワーム・エレメントの触手を爆破した者の正体である。
「了解。直ちに基地に帰投してください」
どこかのモニタールームで、一人の青年が戦闘機からの通信を受け取り基地までの誘導を行った。
「……ついに彼がやって来たんだね。別世界からの使者が」
青年は意味ありげに呟いた。
「すげえもん見ちまったな……」
「あ、ああ。本物の怪獣とロボットの戦いなんて……」
地上にてトライアムネクサスとアースワーム・エレメントの戦いを目撃していた多くの一般人たち。そんな彼らに声をかけてくる者たちがいた。
「大丈夫ですか?」
「え……あ、警察の方ですか?」
「はい。あなたたちを保護しに来ました。大変でしたね」
「いやぁそんな……でもあのロボットが守ってくれましたから」
「はい。では……今まで見た物はすべて忘れていただきます」
警察の男はやけに金属質な警察手帳を取り出し、特殊なフラッシュを浴びせた。すると人々の記憶からロボットと怪獣の記憶がきれいさっぱりに消え去り、その場に倒れこんだ。
「異世界からの来訪者とエレメントの存在はトップシークレットの秘密事項。どうかご理解ください」
そういった男の警察手帳には「公安」と書かれていた。
コックピットから出て、夕焼けに染まり始める街を眺める8人。つい先ほどまで自分たちがロボットに乗って怪獣退治をしていたなんてとても信じられない。だがそれが夢ではない事は、今ロボットの肩の上に乗っている事が証明している。
そんな中、リサだけはコックピットから出ずにガラスでできた小さな花を見つめていた。
「綺麗……あなたも連れて行くからね」
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